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第三幕

<侮辱><侮蔑><罵倒>を正当な行為だと思ってるようなのは<お客>でさえない。店員や職員を、侮辱、侮蔑、罵倒してるのとか見てまっとうな客だと

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『そう言えば、ある時期からすんごく長いタイトルが増え始めて今じゃすっかり定着しちゃってて、それを馬鹿にする人がいるけど、あれ、ちょっと考えたら分かるんだよね。

漫画の場合は表紙とかの絵が<つかみ>として機能するかもだけど、小説とかの場合だと、たとえ書籍化されてイラスト付きになったのでも、そのイラストだけで内容を具体的にイメージさせるのって難しいんだよ。

だからさ、タイトルそのものが漫画における表紙の役目をしてると考えたらイメージしやすいんじゃないの?

長いタイトルを付けるようなタイプの作品は好きじゃないって人は、そのおかげで読む前に回避できるじゃん。ちゃんと機能してるんだよ。

で、私の商業デビュー作のタイトル、「陰キャ少年のアラサーハーレム無双」なんだけどさ、まあ、正直、勢いだけで付けたタイトルだから、一時期、頭掻き毟りたくなるくらい恥ずかしかったりもしたな。

今じゃもうそれも慣れたけど。

でも同時に、内容そのまんまなタイトルで分かりやすいなとは自分でも思うよ。実際、陰キャ少年がアラサ―女性を次々落としていく話だったしさ。

もっとも、この主人公の<陰キャ少年>、陰キャとは言いながらも単にコミュニケーション能力に難があって他人から誤解されやすくてそれであまり積極的に関わろうとしないだけで、能力そのものは実は高いんだよね。うまく噛み合う相手だと弁が立って言いくるめちゃったりするし。

それを見い出したヒロインが、彼に自信を付けさせるために、いろいろ心に問題を抱えた自分の周囲の女性達を彼に引き合わせて、彼には<人生経験>を、女性達には<問題解決のきっかけ>を、っていう話なんだよ。

で、最後には人間として成長した彼とヒロインが、みんなに祝福されつつ結ばれる。っていうさ。

それが、自分でもなんでだか分かんないんだけど何故か売れちゃってねえ。

でも同時に、『非モテアラサー女の妄想じゃん!』『夢見てんなよクサレま~んが!』『腐った羊水が脳にいったんですかwwwww』みたいな罵詈雑言ももらったなあ。

もちろんいい気分じゃないけど、その辺は普通にあることだとは分かってたからスルーできた。

それに、そういうの<批判>じゃないからね。ただの<侮辱><侮蔑><罵倒>だから、気にするに値しない。<読者の声>ですらないし、<侮辱><侮蔑><罵倒>を正当な行為だと思ってるようなのは<お客>でさえない。

店員や職員を、侮辱、侮蔑、罵倒してるのとか見て、まっとうな客だと思う? そういうこと。

しかも、無数にある商品の中から、自分の好みに合う商品を選べばいいだけなのにわざわざ自分の好みに合わない商品を選んであげつらうんだよ?

意味が分からないよ』

実は僕は、アオの作品を読んだことはない。彼女が書いているジャンルの小説は僕には合わないからね。でも、だからって彼女が素晴らしい女性なのは変わらないよ。

一から百まですべて自分の理想通りの相手というのはいない。どんな人にも自分と噛み合わない部分を持っているのは事実だ。

重要なのは、そういう部分も含めた上で愛せるかどうかだと僕は思う。

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