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第三幕

『本人の性格の違い』とかってするのは、はっきり言って怠惰・怠慢だとしか思わない。『面倒なことをしたくない考えたくないからそういうことに

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『他人に対して加害行為を働くということは、被害者に苦痛を与えるのみならず、その被害者が次の加害者になるきっかけを作る行為になる』

という件についてアオも言ってたよ。

『世の中にはあるよね。<『辛い経験をした分だけ他人に優しくできる』神話>みたいなのが。

いや、そう思いたいのは否定しないし悪いことだとも思わないよ。ただ、それじゃ『言葉が足りない』ってだけでさ。

そういうのは正確には、『辛い経験をした人が誰かから優しくしてもらえたら、自分がしてもらえたことを他の誰かにもできるようになる可能性がある』ってことじゃないかな。

だってさあ、辛い経験をした人がそのまんま他人や世の中を恨んで暴走するってことも現にあるじゃん。

じゃあ、そうやって暴走する人と他人に優しくなれる人の差はどこで生まれるんだ? って話でさ。

そこで『本人の性格の違い』とかってするのは、はっきり言って怠惰・怠慢だとしか思わない。『面倒なことをしたくない考えたくないからそういうことにしたい』ってだけだとしか思わないんだよ。

性根はドクズな私がこうやって正気を保ってられたのは、結局、さくらがいてくれたことをはじめとした周囲の環境があってのことだという実感しかないんだ。

彼女がいてくれたからこそ、私は大きく道を踏み外さずに済んだだけ。その実感があるから、『本人の性格だけで決まる』なんてのが信じられない。

実際、私以上に圧倒的にヤバいエンディミオンがさくらと出逢ったことで大きく変わったのを見てるしさ』

そうだ。アオの言うとおり、エンディミオンはさくらと出逢って変わった。

正確には、『自分を抑えられるようになった』と言うべきかな。

それについてもアオは言ってたよ。

『もちろん、そういうのも、『本人が何一つ努力しなくても周囲がどうにかしてくれる』ってわけじゃないのも分かってる。本人の努力が何より必要なんだってのも分かってるよ。ただ、本人に『努力しよう』と思わせるのは、やっぱり周囲の環境の影響が大きいってのも分かるんだ。

さくらと出逢う以前のエンディミオンは、『辛い経験をした分だけ他人に優しく』なんてできなかった。それは、そんな発想が持てるようなきっかけそのものがなかったから。

そういうのを知っちゃうと、『辛い経験をした分だけ他人に優しくできる』なんて、どうしたって言葉足らずにしか思えなくなるんだ。

それを信じたい人は信じててもいいかもだけど、それに当てはまらない実例が降りかかってきたらどうするのかな、とは、思うかな』

彼女は、自分の経験を基にその考えに自力で辿り着いた。僕が教えたわけじゃない。

でもそれは、<その考えに至れるきっかけ>を与えてくれる環境があったからなんだ。

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