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第三幕

自身が受けた<被害>を根拠にして自分の加害行為を正当化しようとするから、自分が<加害者>になってしまっていることに気付かない

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<被害者>が転じて<加害者>になることは、人間社会では珍しくない。

しかも、自身が受けた<被害>を根拠にして自分の加害行為を正当化しようとするから、自分が<加害者>になってしまっていることに気付かない。

<イジメ被害者>が、状況が変化することで<イジメ加害者>になるという例は、それこそ枚挙に暇もないだろうな。

エンディミオンの事例については、<イジメ>どころじゃない、苛烈な<虐待>だった。

彼を生み出した吸血鬼は、

『いかに強力なダンピールを生み出すか』

という研究に没頭するあまりに狂気に取り憑かれ、何人もの人間の女性にダンピールを生ませては実験に使うという行為を繰り返していたそうだ。そしてエンディミオンはそうして生み出されたダンピールの一人だった。

けれど、エンディミオンの父親は、様々な実験の果てに彼に対しては十分な価値がないと判断、母親ともども見捨てて姿を消してしまった。

人間なら確実に何度も死んでいた<実験>を繰り返されたエンディミオンは、結果として吸血鬼と吸血鬼に与する人間を激しく憎み、吸血鬼と吸血鬼に与する人間を根絶やしにすることを自身の生きる目的としてしまったんだ。

そう、<虐待の被害者>だった彼が<加害者>に転じた瞬間だった。

今でこそその<復讐>は中断されているけど、彼は、自身の行いを反省も後悔もしていない。そしてあくまで<中断>でしかなくて、僅かなきっかけで再開されてしまう危険性をはらんでる。

さくらやあきら、そしてさくらとの子である恵莉花えりか秋生あきおの存在のおかげでかろうじてバランスを保っているだけなんだ。

多くの<加害者>も、元を辿れば何らかの<被害者>だった事例は多い。その事実に目を瞑って、<結果としての行為>だけを見て断罪しても同様の事例はなくなることはない。加害者が自らの行いを正当なものと考える根拠となる<被害>が未然に防がれてこそ、<加害者>の多くが生まれないことになるんだと思う。

僕もアオも、それを実践しているだけなんだ。安和アンナを、悠里ユーリを、椿つばきを、<加害者>にしないために、<被害>を与えない。

他人に対して加害行為を働くということは、被害者に苦痛を与えるのみならず、その被害者が次の加害者になるきっかけを作る行為だというのを忘れちゃいけない。

もちろん、自身が辛い経験をしたからといって他人を傷付けていいわけじゃない。けれど、<被害を受けた経験>が、抗い難い<加害衝動>を生み出すこともまた事実。

他人を罵り蔑み嘲るという<加害行為>は、次の<加害行為>を生むということを、人間は自覚するべきなんじゃないかな。

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