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第三幕

僕には、<エンターテイメント>はよく分からない。そういう形の娯楽に強い関心を持ったことがないからね。だけど、自分がそういうものに

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僕には、<エンターテイメント>はよく分からない。そういう形の娯楽に強い関心を持ったことがないからね。

だけど、自分がそういうものに関心がないからって嘲ったり蔑んだりするのは違うって分かるよ。

だから僕は、アオの仕事を馬鹿にしたり侮辱したりしようとは思わないんだ。僕には理解できなくても価値がないわけじゃないからね。

これが、

『相手を敬う』

ということなんじゃないかな。

自分が興味ないからといってどうして侮辱しなければいけないの?

そうやって他人を貶めることで相対的に自分が高いところにいるような錯覚を得たいから?

だけどそのために誰かを傷付けて、それで認めてもらえると思っているの?

こう言うと、『お前が他人を貶めてる』と憤る人間も少なくないよね。でも僕は純粋に疑問なんだ。

自分を侮辱してくる人を信頼してくれる人間は決して多くないのに、どうして信頼されないように自ら振る舞うのかが。

自分にとってそれほど重要でもない見知らぬ他人ならまだ分かるけど、身近な相手にそれをする意味が分からない。

もっとも、『見知らぬ他人なら貶めてもいい』と考えてる人間も、信頼されないだろうね。だって、見えないところでは何をしてるか言ってるか分からないし。

人間は本当に不思議だ。自分は貶められたくないと思っているのに、他人を貶めるんだから。

自分が他人を貶めている以上は、他人もやめてくれないだろうにね。

僕はその事実をこれまでにもたくさん見てきたから、避けようと思う。

アオも言ってるよ。

「私の両親はさ、お互いを敬ってなんかいないんだよ。ただ利用価値があるだけで一緒にいてた。しかも、<共犯者>なんだ。共犯者意識があるから一緒にいられるんだろうなって感じる。

だけどそんな両親を見てて、尊敬なんてできるわけないじゃん? 結婚生活に夢なんか見られるわけないじゃん? だって、ぜんぜん幸せそうに見えないしさ。

今だっていくつも訴訟抱えてて、そのために時間もお金も費やしてて、こうやって他人と諍いを続けるために生まれてきたのかなって思う。

そう思うと可哀想な人達なんだよね。ずっと<長男のおまけ><不良品><邪魔者>と蔑んできた娘がこんなに穏やかな家庭を築けてるんだよ? なのにあの人達の場合、『こうするのが正しい!』って思い込んで邁進してきた結果が、<訴訟まみれの老後>なんだ。

ホント、あの人達はこれからどうするつもりなんだろう? 『正しいのは自分達なんだから最後は必ず勝つ! 勝つまでやる!』って思ってるのかもだけど、もう何度も負けてるんだよ。『間違ってるのはお前達だ!』ってはっきり言われてんのに、認めないんだ。

しかも、相手は権力者でも何でもない。金と権力で道理を捻じ曲げてくるような輩じゃないのに負けてるってことは、自分の側に道理も何もないってことだよね。

なんでそれが分からないんだろう……」

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