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第三幕

僕の勝手な判断と決断でこの世に送り出した子供達を、他人に害を及ぼすような存在のままで、野に放つことはできないから

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<力の使い方>は、力を持つ者こそ知るべきことだと僕は思う。そしてそれは、ただ自分の主観に依存するんじゃなく、客観的な事実に基づいたものであるはずなんだ。

だから僕は、安和アンナ悠里ユーリに、

<自分の主観に基づいた手加減>

じゃなく、

<人間の体を壊さない方法>

を教えていく。

それは、僕自身が両親やセルゲイから学んだものだ。

その、確実に効果のある方法を、正しく学んでもらうんだ。

僕には、親として、それを安和達に伝えていく義務がある。

なぜなら、僕の勝手な判断と決断でこの世に送り出した子供達を、他人に害を及ぼすような存在のままで、野に放つことはできないから。

それに尽きるよ。

だから、安和と悠里の息が上がってきたところを見計らって、

「じゃあ、<打ち込み>についてはこのくらいにしておこう。次は、<技>だ」

「うん」

「分かった」

安和と悠里が、息を弾ませながら応える。

十分に疲れさせて力が抜けたところで、技を覚えてもらう。

その方が、

『力を抜いた状態で使うもの』

と実感しやすいからね。

力で制圧しようとすると、咄嗟の時に加減を間違うこともある。悠里が誘拐犯を骨折させてしまったのはまさにそれなんだ。

だから今から伝えるのは、力に頼らないものだ。

僕が右手を差し出すと、安和も同じように右手を差し出して、でも握手をするわけじゃなく、手の甲を触れ合わせる。

と、僕が右手を動かすのに合わせるように安和も右手を動かした。

それはまるで僕の右手と安和の右手が一体化したように離れない。

<一意>と僕が呼んでるものだった。これは、自分と相手の感覚を一時的に同調させて、結果として相手を誘導するという技だ。

この技のコツは、まさに『力を入れない』こと。触れ合っている部分に意識を向けつつも力は入れず、自分の手があたかも操られているような錯覚を相手に起こさせるんだ。

人間の場合、かなりの修練が必要になるだろうこれも、僕達吸血鬼やダンピールの超感覚を用いればそれほど苦も無く習得できる。

しかも、熟練すれば相手の手などの一部分だけじゃなく、全身を操ることもできてしまう。

魅了チャームを用いても相手を操ることはできるけど、魅了チャームは、場合によって効きにくい相手がいるからね。

こうやって他の手段も身に付けておくのは有効だ。

「自分の手が勝手に動いてる感じ。すっごい変……」

安和が苦笑いを浮かべながら右手を動かす。

「大丈夫。安和は筋がいい。自分の感覚に素直に従えば上達も早いよ」

僕の言葉に、彼女は今度は、

「そうかな……」

少し照れくさそうに微笑んだのだった。

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