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第三幕

殴ることで<痛み>を教えるやり方で上手くいった事例もあるだろうけど、それは、<そのやり方でもうまくいく背景>があったからのはずなんだ

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アオが当たり前のこととしてしている行いをできないのが、自分自身の価値の否定になると思っているのなら、それは思い過ごしというものじゃないかな。

確かに、できればそれに越したことはなくても、やり方というものは一つじゃないから。

本質さえ外さなければ大丈夫だと思う。

他人のやり方をただ真似するだけじゃ上手くいかない場合があるのは、結局のところ、上辺だけをただ真似をして本質の部分が疎かになっているからだろうな。

殴ることで<痛み>を教えるやり方で上手くいった事例もあるだろうけど、それは、

<そのやり方でもうまくいく背景>

があったからのはずなんだ。その<背景>の部分を理解せずに形だけを真似るから、かえって問題が拗れたりする。

殴られても恨みに思わないのは、すでにそこに<信頼関係>が構築されているからのはずなんだ。

つまり、

<信頼関係ありきの方法>

なんだよ。

むしろそれがなければ、殴られた側にはただ苦痛しかない。それどころか、信頼もしてない相手に殴られたとなれば、当然、恨みにも思うよね。

自分が想像しても分かるんじゃないの?

信頼もしてない相手に殴られてそれで納得できるのかどうか。

それに、<痛み>というものは、ある程度までは慣れてしまえるものなんだ。殴られ続ければ、やがてその痛みにも慣れてしまう。

そうなると、

<自分が感じる痛み>

と、

<他人が感じる痛み>

が、乖離する。

『自分はこの程度なら殴られても平気だ』

と思うものが、他人にとっては耐えられないものだという齟齬が生まれる。

こうなると、<手加減>は意味を成さない。自分では手加減したつもりでも、相手にとってはそうとは思えないものになる。

事実、

『手加減したつもりだった』

と殴った側は言ってても、殴られた側は大きな怪我をしたという事件がこれまでにもいくつもあったんじゃないかな?

<手加減というのは、あくまで、する側の主観に基づいた、根拠のない基準>

でしかないんだよ。

多少の経験則には則っていたとしても、裏を返せばそれは、自分の経験則から外れた事例には何も意味がないんだ。

そして、『手加減したつもり』は、どこまでいっても『つもり』でしかない。その時の感情などによっても大きく左右される、本質的には<基準>とさえ言えない<妄想の類>なんだよ。

だから僕達吸血鬼が人間を相手にする時には、<主観に基づいた手加減>に頼るんじゃなく、あくまで、

<大きな怪我をさせない手段>

をとる。

悠里ユーリが、カナダで誘拐犯に対処した時に相手を骨折させてしまったのは、咄嗟のことに適切な判断ができなかったからだ。悠里自身は『手加減したつもり』だったけど、人間相手には手加減になってなかったんだ。

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