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第三幕

僕は、『力を持つ者はそれを使わない』ことが大事なんだとは思わない。『力の使い方を学び理解する』ことこそが大事だと実感している

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僕は、

『力を持つ者はそれを使わない』

ことが大事なんだとは思わない。

『力の使い方を学び理解する』

ことこそが大事だと実感している。

僕自身、父と母からそう教わった。

僕達吸血鬼や、安和アンナ達ダンピールは、人間よりも圧倒的に強い。それこそ個対個であれば、人間には万に一つの勝ち目もない。古来より伝わる、

<吸血鬼の弱点>

は、実際には科学的見地から検証されたわけじゃない、出所不明のただの<流言飛語>があたかも事実であるかのように伝えられてきているだけだ。

太陽の光は確かに僕達にとっては有害だけど、それすら、まったく無防備なままで日中ずっと日の光を浴び続けていると大変なダメージを負うというだけでしかなく、それだけで致命的なわけじゃないんだ。

十字架やニンニクに至っては、もう、なぜそんな話が出てきたのかも定かじゃない。

一部の吸血鬼が敬虔なクリスチャンだったことは確かにあって、それで十字架を疎かにするのは嫌がったというのはあったかもしれないとは言われているけど、ニンニクは……

吸血鬼は鼻も効くから、ニンニクの臭いが苦手だったのは、もしかするといたのかもしれないね。

でも、僕はまったく気にならないよ。苦手な人もいるだろうから、エチケットとして気を付けることはあっても、それで僕自身が影響を受けることはないな。

本当に不思議だよ。

しかもそれをいまだに信じている人がいるというのも理解に苦しむ。

もっともそれは、僕達吸血鬼やダンピールと実際に関わることがないから、認識が更新されないというのもあるんだろうけど。

いずれにせよ、人間達の<願望>は残念ながら実を結ぶことはないんだ。

でも、だからと言って僕達は自身の力に溺れようとも思わない。それを正しく理解して、よりよい生き方を目指したい。

人間と良好な関係を築きたい。

今の時点ではなかなか難しいのは事実でも、努力もせずに諦めるは違うと思うんだ。

少なくとも、僕はそれを目指したいから。

そのためにも、安和と悠里ユーリの力を確かめる。

二人は、順調に自身の力を理解していってるのが感じられるな。

まさしく、力の使い方を理解していってるのは事実だな。

二人の拳や蹴りを受け止める僕の手に、より確実に力が伝わってくるようになってきている。

それでいて、二人はとても冷静だ。以前はすぐに息が上がってたのに、今では倍以上の時間、全力で動いていても涼しい顔をしているね。

と同時に、力に溺れていない。

力に溺れていないから使い方にも無駄がなく、効率がいいんだ。

頼もしい。

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