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第三幕

ママがドヤ顔で『生んでやったんだ。感謝しろ!』とか言ってきたらぶん殴ってやりたいと思うよ

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アオは続ける。

「私の両親も、<生んでやった恩><育ててやった恩>について異様に拘る人だった。だから私に対しても、『生んでやったんだから、育ててやったんだから、私達の役に立て。恩を返せ』ってタイプの人だったんだ。

だから、その家庭で何があったのか、殺された孫娘が何を言われてたのか、すごく想像できちゃうな……

もちろん、それはあくまでただの<想像>だから実際に何があったのかは分からない。でも、私が自分の両親にされたことを考えれば、孫娘の絶望はどれだけだっただろうなって気はしちゃうのは正直な気持ち……

だからさ、私は安和アンナ達に『恩を売ろう』なんて思わないんだよ」

そんなアオに、安和は、

「マジそれ。ママは『生んでやった』とか『育ててやった』とか言わないからすっごくいいんだよ。『ムカつく!』ってならないんだ。

そうだよね。吸血鬼のパパとで子供作ったらダンピールになる確率が高いのに子供作るとか、普通に考えたら正気じゃないよ。それでもし、『生んでやった』とか言われたら、それこそ『ふざけんな!』って思う。

実際さ、ママがドヤ顔で『生んでやったんだ。感謝しろ!』とか言ってきたらぶん殴ってやりたいと思うよ。

だけどママもパパもそれは言わないんだ。それだけでもメチャクチャありがたいよ」

『ママがドヤ顔で『生んでやったんだ。感謝しろ!』とか言ってきたらぶん殴ってやりたいと思うよ』

そう言った安和に、アオは、

「あはは♡」

と笑っただけだった。

もしかしたら、

『親に向かってなんてことを言うんだ!!』

って憤る人もいるかもしれない。でも安和はアオのことを殴りたいと思ってるわけじゃないんだ。

『生んでやったんだ。感謝しろ! と言われたら殴りたいと思ってしまうかもしれない』

と言ってるだけで。

アオは、表面的な言葉だけを捉えて、相手の発言の一部分だけを切り取って、それに対して感情的になることをよしとは考えない。安和が実際には何を伝えたいのかをしっかりと考えようとするんだ。

『ママがドヤ顔で『生んでやったんだ。感謝しろ!』とか言ってきたらぶん殴ってやりたいと思うよ』

という安和の言葉は、実際には、

『ママは『生んでやったんだ。感謝しろ!』とか言わないから信じられる』

と言いたいんだってことを、アオは理解しているんだ。

<そうやって相手の言葉を理解しようと努力する大人の姿>

を、実地で安和達に示してくれてるんだ。

そして安和達は、そんなアオを真似るだけで、表面的な言葉、一部の言葉だけで感情的にならないようにできるんだよ。

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