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第三幕

人間はえてして、『自分は他人を攻撃してもいいけど、他人が自分を攻撃するのは許さない』って考えがちな生き物だよね

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人間はえてして、

『自分は他人を攻撃してもいいけど、他人が自分を攻撃するのは許さない』

って考えがちな生き物だよね。

アオは、<ラノベ作家>だけど、他の人の作品に触れる時には、当然、<読者>だったり<視聴者>だったりする。そして、読者や視聴者の立場としても、

『他人の作品を貶さない』

んだ。

それは、

『自分の作品を貶されていい気はしないから』

なんだよ。

悠里ユーリ達に対して横柄な態度を取らないようにしてるのも、威圧的な態度を取らないようにしてるのも、同じ理由。自分がそれをされたら不快だからなんだ。

もちろん、子供にとっては不快でも、やらなきゃいけないことだってある。

病気になった時に病院に行くとか、注射をするとか、薬を飲むとか。

そういう、避けようのないことに加えて、別に必要でもないことでまで子供を不快にさせたり不安にさせたり怖がらせたりするのはなぜ?

自分の<憂さ>を晴らすためじゃないの?

たったそれだけのことのために、人間は他人に対して攻撃的になる。それなのに、他人が同じ理由で自分を攻撃することは許さないんだ。

しかも、自分が攻撃することについては、とにかく正当化しようとする。

どうしてアオがしてるみたいに、できないの?

彼女は、他人を攻撃するのを正当化しようとは思ってないよ?

もちろんそれは、子供達に対しても。

つい声を荒げてしまうことがあっても、それを正当化はしないんだ。

そうやって自分が適切じゃないことをしてしまった時にはちゃんと認められるから、そんな彼女の姿を見てる悠里達は、同じように自分が適切じゃないことをしてしまった時にはちゃんと認められる。詭弁で誤魔化して自分を正当化しようとしないように心掛けてる。

心掛けられる。

だから、他人を攻撃しないように心掛けることもできる。

他人を攻撃しないから、誰かをイジメたりしないし、ネットで誰かを罵ったりもしない。

つまり、悠里達にイジメられる被害者も出ないし、ネットで罵られる被害者も出ない。

イジメの予防や、ネットリテラシーというものの向上も、そういう形で行われるべきものじゃないの?

『イジメはなくならない』

なんて簡単に諦めるんじゃなくてさ。

もっとも、以前、椿つばきに怪我を負わせた冠井迅かむらいじんの両親は、いまだに自分達に非はないとして裁判で争っているそうだ。

他人に対して攻撃的な人間って、どうしてこう、自分にばかり甘いんだろうね。

椿に怪我をさせたことについて責任を認めて謝罪さえすれば学校側もことを荒立てるつもりはなかったのに、それを嫌がったから問題が大きくなった。

本当に不思議だ。

自分の非を認めないことで彼らは何を得るんだろう……

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