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第三幕

職業で人間の価値が決まるという感覚は僕達吸血鬼にはないから実感はないけどね

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アオの仕事は、<ラノベ作家>という、世間ではざまに言われることも少なくない職業なんだって。

僕はあまり詳しくないし、職業で人間の価値が決まるという感覚は僕達吸血鬼にはないから実感はないけどね。ほら、例えばプロスポーツのスター選手とかでも、単純な身体能力だけなら吸血鬼は誰一人負けないから、<価値>という点では考慮する意味がないんだ。

だけど、僕にとってはアオは素晴らしい人だよ。僕達吸血鬼に対しても偏った見方をしないでいてくれるし。

悠里ユーリ達も、アオの職業を信頼してくれてるわけじゃない。

<アオという人>を信頼してくれているんだ。

どうして人間は、本人自身以外の何かで価値を作ろうとするんだろう?

職業や地位に価値があるのなら、それは『その職業や地位であれば他の人でもいい』ということになるんじゃないの?

本当に不思議だよね。

『その人以外の人じゃダメ』

というわけじゃないんだから。

僕にとっては、アオ以外の人じゃダメなんだけどな。

『その職業、地位に就ける人だから価値がある』

と言いたいのかもしれないけど、それでも、『その人以外の人じゃダメ』ということにはならないよね。

しかも、不正を働いてそのポジションに収まっても価値が生じてしまうから、

選挙で不正を働いて当選した政治家のような、

もしくは、その場限りの甘言で当選した政治家のような、人も出てくる。

他にも、好ましくない行為を用いて人気者の地位を得た人間というのもいるね。

いずれも、<人>ではなく<職業>や<地位>に価値があるからこそ、不正や甘言や好ましくない行為を用いてでもそこに収まろうとする人も出てくるんだろうな。

そんな形ででも獲得できる<職業>や<地位>や<立場>に、本当に価値があるの?

だけどそれを言うと今度は、

『その職業や地位や立場につけない奴の負け惜しみだ』

という言葉が聞こえてくる。

『そんな形ででも獲得できる<職業>や<地位>や<立場>に価値があるの?』

との問い掛けの答えにはなっていないのにね。

だからこそ僕は、ただその人自身を見る。

悠里達が<いい子の仮面>を被っていたとしても、その下の素顔を見る。

僕にとって価値があるのは、

<いい子という体裁>

じゃないからね。

悠里自身、安和アンナ自身、椿つばき自身にこそ価値があるんだ。

そうすると、<いい子の仮面>を被る必要もなくなる。正直な気持ちを僕とアオにぶつけてくれる。打ち明けてくれる。

そして、他人に対しても、<整えられた体裁>で評価をする必要もなくなる。

<その人自身>を見るようになるんだ。


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