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第三幕

他者に疎まれることが自分の利にならないと

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オコジョを追った悠里の気配を、僕は捉えていた。

オコジョは、寝床である近所の公園に戻ったみたいだ。途中にムクドリを捕らえてたから、自分の巣に戻りゆっくりと食べるつもりなんだろう。

悠里はそんなオコジョを、少し離れたところから様子を窺っているのが分かる。

そこまで確認したところで、後は彼に任せることにした。何か異変があればそれも伝わってくるからね。

僕はキッチンで紅茶をいれながら、安和アンナの様子も窺う。彼女は自分が運営するレビューサイトの管理をしていた。それを確かめた上で紅茶を持って書斎に戻った。

紅茶に拘る人ならやらないことかもしれないけれど、僕はそこまで拘ってはいない。これでも十分に寛げる。

書斎に戻ったのは、こちらの方が外の気配を感じ取りやすいから。

同時に、パソコンを起動して口座を確認する。

株の運用は完全に専門家に任せている。概ね順調のようだ。少なくとも家族が安穏と暮らしていける程度には運用益も出ている。大きく儲けるのではなく、利幅は小さくても確実な利益の確保をお願いしている。

僕達吸血鬼には、人間の社会保障は適用されない。だから自分の生活は自分で守る必要がある。

たとえ、少しばかり人間の<法>に背いてでもね。

ただし、<被害>を出さないことが暗黙のルールだった。吸血鬼独自のネットワークを使ってインサイダー取引はしても、株価操作はしない。

インサイダー取引は『機会の平等に反する』から禁止されていても、明確な被害は生じない。<不公平>があるだけだ。ただ、株価操作については、企業そのものにダメージを与える危険性があるからやらない。もちろん、インサイダー取引でも場合によっては株価操作に繋がることがあるから、その点は気を付けないといけないけど。

もっとも、その<暗黙のルール>を破っても実は具体的な罰則はない。他の吸血鬼から疎まれて<共助>の恩恵に十分与れないことがあるくらいだ。

それでも誰も、大きくルールを破ることはしない。自分の<利>にならないことを理解しているから。

他者に疎まれることが自分の利にならないと理解していれば、罰則なんてなくても自制できるはずなんだ。それを理解していないから、我儘放題できてしまう。

どうして、他人に疎まれても平気でいられるの? 誰にそういう在り方を教わったの? 

誰が、

『他人に疎まれても気にするな』

と教えたの?

確かに、他人に疎まれることを気にしすぎても辛いだけかもしれない。

だけど、『気にしすぎない』ことと『疎まれても平気』というのは違うんじゃないかな。

自分が意図的に他人を傷付けようとしていなくても、何気ない些細なことで他人に疎まれてしまう時があるのは、避けられない。

でもそれと、意図的に誰かを攻撃して、傷付け苦しめた結果として疎まれるというのは、まったく別のものだと思うんだ。

前者はむしろ自分が被害者と言えるかもしれないけど、<攻撃された側>と言えるかもしれないけど、後者は明らかに、

<攻撃した側>

だよね。

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