上 下
417 / 571
第三幕

いつでもどこでも

しおりを挟む
「生き物の研究って、何か特定の種類に絞ってやるんじゃなかったら、いつでもどこでもできるよね。だって、どこにでも何か生き物はいるんだからさ。人間からは嫌われる<害虫>だってもちろん生き物なわけで、しかもその生態とか構造とかはすごく興味深いし」

「そうだね。この地球という惑星の懐の深さを感じるよ」

虫かごに入れたゴキブリを熱心に見詰めつつ語る悠里ユーリに、僕は応えてた。人間ならこういう時、

『そんなもの!!』

と声を荒げてしまうのかもしれないけど、彼の場合はゴキブリを苦手としてるアオや椿つばきに対しては見せないように気を遣ってくれてるから、僕としても、好きにさせてあげられるというのもある。

これが、アオや椿が嫌がっているのにリビングで観察をしているようだと、自重を求めざるを得なかったと思う。

悠里が家族を気遣える子だからこそのものだろうな。そしてそれは、アオが、相手を敬い気遣う姿勢を見せてきたからこそのものなんだ。自分に向けられるアオのそういう姿を見てきたからこそ彼はそれを真似るだけでよかった。

『子供に甘い貌をすると付け上がる』

と言う人がいるけれど、それは、隙あらば相手につけ込もうとする身近な誰かの姿を姿を見倣っているからのものじゃないのかな。手本がなければそもそもそういう発想を持つこと自体が難しいからね。

『気遣いには気遣いで返す』

アオと子供達の間にはそういう関係が出来上がっているんだ。

僕はそれを誇りに思う。

『相手が下手したてに出ればそこにつけ込む』

それが当たり前の環境に育てばなるほどそういう子供に育つかもしれない。だけど、悠里達はそうじゃないんだ。

『相手が下手したてに出たからといってそこにつけ込むという発想がない』んだよ。

確かに『相手が下手したてに出れば徹底的につけ込む』という発想を持つ人だったら、

『お前達が勝手に生み出したんだ! すべて僕の思い通りにしろ!!』

といったことを要求するかもしれない。けれどそれは、

『相手を気遣う』

ことができる人はやらないよね? だから、アオから<気遣い>を学んだ悠里ユーリ達についてはそもそもその心配をする必要もないんだ。

加えて、

『何か要求があるのなら丁寧に相手と協議する』

そういう姿勢も、悠里達はアオから学んでいるんだ。一方的に高圧的に要求するんじゃなく、まずは要望を打診して、それが呑めるものであるかどうかを協議する余地を設けるというやり方を、アオは身をもって悠里達に示してくれていた。それを学び取っている悠里達がどうして、

『お前達が勝手に生み出したんだ! すべて僕の思い通りにしろ!!』

なんて言わなきゃいけないの?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

わたし

河衣佳奈
エッセイ・ノンフィクション
タイトルのとおり、「わたし」に着いて書こうと思います。 これは官能小説家としてではなく、人間 河井佳奈として。 気が向いたら読んでください。

結婚までの120日~結婚式が決まっているのに前途は見えない~【完結】

まぁ
恋愛
イケメン好き&イケオジ好き集まれ~♡ 泣いたあとには愛されましょう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ 優しさと思いやりは異なるもの…とても深い、大人の心の奥に響く読み物。 6月の結婚式を予約した私たちはバレンタインデーに喧嘩した 今までなら喧嘩になんてならなかったようなことだよ… 結婚式はキャンセル?予定通り?それとも…彼が私以外の誰かと結婚したり 逆に私が彼以外の誰かと結婚する…そんな可能性もあるのかな… バレンタインデーから結婚式まで120日…どうなっちゃうの?? お話はフィクションであり作者の妄想です。

【完結】龍神の生贄

高瀬船
キャラ文芸
何の能力も持たない湖里 緋色(こさと ひいろ)は、まるで存在しない者、里の恥だと言われ過ごして来た。 里に住む者は皆、不思議な力「霊力」を持って生まれる。 緋色は里で唯一霊力を持たない人間。 「名無し」と呼ばれ蔑まれ、嘲りを受ける毎日だった。 だが、ある日帝都から一人の男性が里にやって来る。 その男性はある目的があってやって来たようで…… 虐げられる事に慣れてしまった緋色は、里にやって来た男性と出会い少しずつ笑顔を取り戻して行く。 【本編完結致しました。今後は番外編を更新予定です】

女児霊といっしょに。シリーズ

黒糖はるる
キャラ文芸
ノスタルジー:オカルト(しばらく毎日16時、22時更新) 怪異の存在が公になっている世界。 浄霊を生業とする“対霊処あまみや”の跡継ぎ「天宮駆郎」は初仕事で母校の小学校で語られる七不思議の解決を任される。 しかし仕事前に、偶然記憶喪失の女児霊「なな」に出会ったことで、彼女と一緒に仕事をするハメに……。 しかも、この女児霊……ウザい。 感性は小学三年生。成長途中で時が止まった、かわいさとウザさが同居したそんなお年頃の霊。 女心に疎い駆け出しの駆郎と天真爛漫無邪気一直線のななのバディ、ここに爆誕! ※この作品では本筋の物語以外にも様々な謎が散りばめられています。  その謎を集めるとこの世界に関するとある法則が見えてくるかも……? ※エブリスタ、カクヨムでも公開中。

ブラックベリーの霊能学

猫宮乾
キャラ文芸
 新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。

処理中です...