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第三幕

悠理の研究心

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悠里ユーリは生き物が好きで、今はそちら方面の道に進みたいと思ってるそうだ。

その意味でもセルゲイは彼にとって一番の<先生>なんだろうな。

だからなにも心配していない。セルゲイはとてもいい<人生の先輩>だから。

そして悠里ユーリは、ほぼ毎日、家の周りで、昆虫をはじめとした様々な生き物の観察に余念がなかった。

都会に住んでいたらそういう生き物に触れる機会は少ないように思うかもしれないけれど家の中だって様々な生き物がいる。

僕がプレゼントした顕微鏡を使って<家ダニ>を観察したり、<タカラダニ>と呼ばれる真っ赤なダニを観察したりということも。

「ゲー…なにやってんの、悠里」

昆虫の類は好きじゃない安和アンナがそう言っても気にしない。

むしろ、

「安和には分からないかもしれないけど、昆虫ってすごいんだよ。こんなに小さくてもちゃんと生きてて、自由に動いて、命として成立する全てが揃ってるんだ。しかも多細胞。僕は<神>は信じないけど、こんな生物が誕生することについては、なにか高次元の存在の意図を感じないこともないくらいだ」

嬉しそうに応えてた。

「……わっかんない…!」

『分かんない』と吐き捨てるように言った安和だったけど、だからといって悠里のことを否定する意図もないのは、分かってる。だから僕も口出しはしない。

しかも悠里は、クモやゴキブリも人間のように恐れたりしない。だから自分で捕らえてケースに入れてずっと観察していることもある。実は安和も、好きじゃないけど怖がることはない。この辺りは、吸血鬼やダンピールには一般的に見られる感性だ。人間にとってはすごく動きが早くて不意を突かれることもあるからそれが恐怖を倍増させるらしいけど、僕達吸血鬼やダンピールの感覚からすればカブトムシやクワガタムシとそんなに変わらないからかもね。

一方、アオや椿つばきは苦手としてるから、そんな二人に配慮して、悠里は僕の<書斎>にこもって観察するんだ。

夏には<蚊>も貴重な観察対象になる。

特に、蚊の<口吻>と呼ばれる針状になった器官については、その特異な構造や神秘的とも言える形態には感心させられてるようだ。

「いったい、何がどうなればこんな形になるんだろう? 進化の結果なのかもしれないけど、それにしたって不可解だよ。僕が作るとたらこんな風には作らない。そもそも、<吸血>という行為に至るのも謎だ。人間とかを狙ったらそれこそ殺されるリスクもあるのに、どうして果汁とか蜜じゃ駄目なんだろう? 蝶とかはそれで間に合ってるんだよね。同じ蚊の仲間でも、吸血しないのもいるそうだし……」

顕微鏡を覗き込みながら、そんなことを呟いてたりもしたな。

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