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第三幕

反抗期

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警官が自分の体で母親の殴打を受け止めたのは、叩くのをやめさせるために手を掴むだけでも問題になることがあるからだろうな。

<特別公務員暴行陵虐>等で訴えられる事例が実際にあるんだと思う。

だから、怪我したり命に係わるようなものでない限り、わざと自分の体で受け止めるというわけか。

なにしろ、そうしておけば逆に<公務執行妨害>や<暴行>として対処できる可能性も出るし。

一般市民が拳銃とかを所持している前提がない日本ならでは対応ではあるけど、利口だと思った。

一般市民が銃を所持していることの多い国や地域では、いきなり発砲されることもあるからね。警官の方もそれを前提に、怪しい動きをすれば警告なしで発砲する事例も確かにある。

建前としては『警告の上で他に有効な手段がない場合にのみ発砲を許可する』となってる場合がほとんどだろうけど、それじゃ間に合わない現実もあるし。

でも、ここは日本。日本の実情に合わせた対応をするのは当然だ。一部の、

<他人の生き死にを娯楽と考えている者>

の要求に応える必要もない。

いずれにしても、警官は、

「まあまあ、お母さん、落ち着いてください。今回の件は彼に何の落ち度もありませんでしたから。ちゃんと青信号の横断歩道を渡ってて、信号を見落とした自動車にぶつけられそうになったというだけです」

三十代後半くらいから四十代前半くらいのその警官は、すごく手慣れた感じで母親に応対する。

その上で、

「ただ、九歳の子が夕暮れ時に一人で校区外を歩いていたというのは、どのような事情があってのことか、お聞かせ願えますか?」

と、丁寧に、でもはっきりと言い含めるように問い掛けた。

すると母親は、

「……!?」

口をつぐんで視線を逸らす。さすがに咄嗟に適当な作り話は思い付かなかったんだろうな。

でも、すぐに、

「この子は、いっつもこうやって勝手に出歩く癖があるんです。何度注意しても聞かなくて……」

当たり前の顔をして嘘を吐く。

この母親は、紫音しおんが出歩いていても、それを注意なんてしていなかった。むしろ、

「お母さんは用事で忙しいから外で遊んでて」

と言って彼を追い出そうとしてた。しかもその<用事>は、ほとんどが<夫じゃない男性との逢瀬>なんだ。

そして紫音しおんも、今回、はっきりとそれを目撃してしまった。

「……」

だけど彼は、うなだれて何も言わない。今の自分にこの状況を打破する力がないことを想い知ってるからだろうな。

でもそれは逆に、<状況を打破する力>が自らに備わってきたと実感できるようになれば、明確な反抗を見せるようになるという意味でもある場合が少なくない。

世間ではそれを<反抗期>と呼ぶらしいね。

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