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第三幕
聞こうとしなくても
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集団登校のための待ち合わせ中、一人の子供が突然嘔吐して、<地域見守り隊>の女性が救急要請したのを、吐いた子の母親が、
『今日はこれから約束があるんです! 病院とか行ってる時間なんかないんです!!』
と怒り出したのを見て、その間にいたほぼ全員が呆気に取られた上で、軽蔑の眼差しを母親に向けた。
僕と椿以外は。
僕は吸血鬼だから人間のそういうことについては関知しないように心掛けてるし、
そして椿は、軽々しく他人を軽蔑するのは良くないことを知ってくれているから。
しかも僕は、その母親の言った<約束>が何なのか、察していた。彼女は、夫と子供が留守の間、自身のパートの時間が来るまで、自宅に男性を招き入れてるんだ。
たぶん、それのことだろう。何しろ僕の目には、彼女が手にしていたスマホの画面に、熱烈な愛のメッセージの羅列が見えてしまっていたし。
夫じゃない男性を家族が留守の間に招き入れてることについては、僕もたまたま見かけてしまっただけだった。それも、一度や二度じゃなく。
男性の方は、作業服を着て何らかの作業のために訪れた風を装っていたけど、僕には、二人が性的に興奮している人間が出す匂いを強烈に放っているのが分かってしまう。
しかもその後、女性の嬌声まで聞こえてきたよ。
椿や、恵莉花や、秋生の登校を見守るために通る道に面した家だから、聞こうとしなくても聞こえてしまうって形でね。
だけど僕は、その家庭に対しては干渉しない。フードファイターを目指しカナダの大学に通う美千穂が誘拐された時のように、命にも関わるような状況であれば手を出すこともあっても、そこまでじゃないなら、たとえ家庭が崩壊するような事態だとしても手出しはしない。
それはあくまで、当人の問題だから。
加えて、世の中には、互いに不貞を働いていてもお互いに関知しないという形を取っている夫婦もいたりするからね。余所の家庭の機微については、僕には分からない。
でも、この時、自分の子供が明らかに体調が悪く嘔吐までしたのに、『約束があるから』と病院にさえ連れて行こうとしない母親には、僕も内心では呆れていた。
しかも、体調悪そうな様子に気付いて声を掛けた椿に怒声を浴びせたことは、許し難い。
ただ、それでも、近くで見守り活動をしていて異変を察し駆け付けてくれた<地域見守り隊>の女性がその場を仕切ってくれたことで、僕はそちらは任せて、
「大丈夫? 椿」
気配を消したまま、椿にだけ聞こえるように声を掛けた。すると椿も心得たもので、
「うん、大丈夫だよ。お父さん」
僕にだけ聞こえる小さな声で応えてくれたんだ。
『今日はこれから約束があるんです! 病院とか行ってる時間なんかないんです!!』
と怒り出したのを見て、その間にいたほぼ全員が呆気に取られた上で、軽蔑の眼差しを母親に向けた。
僕と椿以外は。
僕は吸血鬼だから人間のそういうことについては関知しないように心掛けてるし、
そして椿は、軽々しく他人を軽蔑するのは良くないことを知ってくれているから。
しかも僕は、その母親の言った<約束>が何なのか、察していた。彼女は、夫と子供が留守の間、自身のパートの時間が来るまで、自宅に男性を招き入れてるんだ。
たぶん、それのことだろう。何しろ僕の目には、彼女が手にしていたスマホの画面に、熱烈な愛のメッセージの羅列が見えてしまっていたし。
夫じゃない男性を家族が留守の間に招き入れてることについては、僕もたまたま見かけてしまっただけだった。それも、一度や二度じゃなく。
男性の方は、作業服を着て何らかの作業のために訪れた風を装っていたけど、僕には、二人が性的に興奮している人間が出す匂いを強烈に放っているのが分かってしまう。
しかもその後、女性の嬌声まで聞こえてきたよ。
椿や、恵莉花や、秋生の登校を見守るために通る道に面した家だから、聞こうとしなくても聞こえてしまうって形でね。
だけど僕は、その家庭に対しては干渉しない。フードファイターを目指しカナダの大学に通う美千穂が誘拐された時のように、命にも関わるような状況であれば手を出すこともあっても、そこまでじゃないなら、たとえ家庭が崩壊するような事態だとしても手出しはしない。
それはあくまで、当人の問題だから。
加えて、世の中には、互いに不貞を働いていてもお互いに関知しないという形を取っている夫婦もいたりするからね。余所の家庭の機微については、僕には分からない。
でも、この時、自分の子供が明らかに体調が悪く嘔吐までしたのに、『約束があるから』と病院にさえ連れて行こうとしない母親には、僕も内心では呆れていた。
しかも、体調悪そうな様子に気付いて声を掛けた椿に怒声を浴びせたことは、許し難い。
ただ、それでも、近くで見守り活動をしていて異変を察し駆け付けてくれた<地域見守り隊>の女性がその場を仕切ってくれたことで、僕はそちらは任せて、
「大丈夫? 椿」
気配を消したまま、椿にだけ聞こえるように声を掛けた。すると椿も心得たもので、
「うん、大丈夫だよ。お父さん」
僕にだけ聞こえる小さな声で応えてくれたんだ。
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