上 下
372 / 571
第三幕

フィクションの中でどんなことが起こっても

しおりを挟む
アオは続ける。

「反戦派の人達が『戦争体験を語り継がなきゃ!』って思うのは、それによって戦争の悲惨さとか苦しさとか残酷さとかを伝えようと思うからでしょ?

でも、『戦争の悲惨さとか苦しさとか残酷さとかを実感させるためにまた戦争を起こさせる』なんてのはそれこそ本末転倒じゃん。だからこそ、もうすでに起こってしまった、<変えようのない現実>であるのと同時に、『それを語っても新たに被害者が出るわけじゃない』からこそ体験談を伝えようとするんだと思う。

フィクションも、そういう形で利用できるものなんだよ。

フィクションの中でどんなことが起こっても、被害者は決して出ない。フィクションの描写や表現に対してモヤっとすることがあったんなら、それは<教訓>とか<反面教師>として役立てればいいだけの話なんだよ」

母親の言葉に、悠里ユーリ安和アンナも頷きながら、

「だよね」

「マジそれ。現実とフィクションを混同すんなって思う」

と納得してくれた。

そんな子供達に、アオはさらに言う。

「子供が家のことをする話に戻すと、『家の手伝いをする子が偉くて、家のことをやらない子は<ダメな子>』ってことで、『家のことを手伝え! 手伝わない奴はダメだ!!』みたいに強要するのは確かに虐待って言えるかもしれない。

だけど同時に、子供が自分から進んでやってるのに、『それは児童労働だ! 虐待だ!!』とかケチをつけるのも、やっぱり虐待になると私は思うんだ。

ここで大事なのは、結局、『相手を敬う』ってことだと思うんだよ。子供だからって見下すんじゃなくて、軽んじるんじゃなくて、<独立した一つの人格>として敬ってたら、『家のことを手伝え!!』なんて強要もしないし、逆に、子供が好きで自分から手伝ってるのを『児童労働だ! 虐待だ!!』なんてケチ付けることもしないはずだよ。どっちも、他人を敬ってないからできることだよね」

これについても、悠里も安和も頷いてくれてた。

『相手を敬う』と言っても、どうするのが『敬う』ことになるのかが分からない人もいるんだろうな。

じゃあ、どうして分からないの?

教えてもらわなかったから分からないの?

それとも、教えてもらったけど分からないの?

『教えてもらったけど分からない』んだとしたら、それは、自分が理解するまで相手が教えてくれなかったの?

それとも、自分が理解する気がなかったの?

自分に理解する気がなくてそれで『どうすることが相手を敬うことになるのか分からない』のなら、それは完全に自分の所為だよね。

他人を敬うことができない人が、どうして人としての道理を説けるの?

僕にはすごく疑問だよ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜

摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。 どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m

喰って、殴って、世界を平らげる!――世界を喰らうケンゴ・アラマキ――

カンジョウ
キャラ文芸
荒巻健吾は、ただ強いだけではなく、相手の特徴を逆手に取り、観客を笑わせながら戦う“異色の格闘家”。世界的な格闘界を舞台に、彼は奇抜な個性を持つ選手たちと対峙し、その度に圧倒的な強さと軽妙な一言で観客を熱狂させていく。 やがて、世界最大級の総合格闘大会を舞台に頭角を現した荒巻は、国内外から注目を浴び、メジャー団体の王者として名声を得る。だが、彼はそこで満足しない。多種多様な競技へ進出し、国際的なタイトルやオリンピックへの挑戦を見据え、新たな舞台へと足を踏み出してゆく。 笑いと強さを兼ね備えた“世界を喰らう”男が、強豪たちがひしめく世界でいかに戦い、その名を世界中に轟かせていくのか――その物語は、ひとつの舞台を越えて、さらに広がり続ける。

鬼人の養子になりまして~吾妻ミツバと鬼人の婚約者~

石動なつめ
キャラ文芸
児童養護施設で育ったミツバは鬼人の『祓い屋』我妻家に養子として引き取られる。 吾妻家の家族はツンデレ気味ながら、ミツバの事を大事にしてくれていた。 そうしてその生活にも慣れた頃、義父が不機嫌そうな顔で 「お前と婚約したいという話が来ている」 といった。お相手は同じく鬼人で祓い屋を生業とする十和田家のソウジという少年。 そんな彼が婚約を望んだのは、ミツバが持つ『天秤体質』という特殊な体質がが理由のようで――。 これは恋に興味が無い少女と少年が、面倒で厄介な恋のアレコレに巻き込まれながら、お互いをゆっくりと好きになっていく物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

我が娘が風呂上りにマッパで薄暗い部屋でPCの画面を見ながら不気味な笑い声を上げてるんだが?

京衛武百十
現代文学
私の名前は久遠観音(くどおかんね)、33歳。今年20歳になる娘を持つシングルマザーだ。『33歳で20歳の娘?』って思うかもしれないけど、娘はダンナの連れ子だからね。別に不思議じゃないでしょ。 世の中じゃ、『子連れ再婚は上手くいかない』みたいに言われることも多いみたいだけど、そんなの、<上手くいかない例>がことさら取り上げられるからそんな印象が抱かれるだけで、上手くいってるところは上手くいってんだよ。上手くいってるからこそいちいち取り上げられない。だから見えない。 それだけの話でしょ。 親子関係だって結局はただの<人間関係>。相手を人間だと思えば自ずと接し方も分かる。 <自分の子供>って認識には、どうにも、『子供は親に従うべきだ』って思い込みもセットになってるみたいだね。だから上手くいかないんだよ。 相手は人間。<自分とは別の人間>。自分の思い通りになんていくわけない。 当たり前でしょ? それなりに生きてきたなら、そのことを散々思い知らされてきたでしょ? 自分だって他人の思い通りになんて生きられないじゃん。 その<当たり前>を受け入れられたら、そんなに難しいことじゃないんだよ。 私は、娘からそのことを改めて教わったんだ。     筆者より。 なろうとカクヨムでも同時連載します。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

処理中です...