上 下
366 / 571
第三幕

変わってしまう命

しおりを挟む
人間は人間として生まれたから人間なんだと思う。それが、

<人間じゃないもの>

に変わってしまったら、それでも人間でいられるのかな。

でも、勘違いしないでほしい。僕は人間じゃないものを批判するつもりも馬鹿にするつもりもないんだ。

だって、僕自身が<人間じゃない存在>だから。

そんな僕が、人間じゃないからって馬鹿にする理由がないしさ。

ただ、命の形が変わってしまっても以前のままでいられる人はそんなに多くない。

ラノベというジャンルの小説を創作しているアオでさえ、自分が自分じゃなくなってしまわないという確認は持てなかったんだって。

創作の中では、人間が、

<人ならざるもの>

に変わってしまっても元の人間としての魂の形を保ち続けるっていう話が多いし、そういうのが望まれてるんだろうな。

創作だから。現実じゃないから。

だけど、それは逆に、

『現実ではそうじゃない』

ことを無意識のうちに察してるからじゃないのかな。だからこそ、創作の中では、それを期待してしまうのかもね。

それは悪いことじゃないと思う。アオも言ってたけど、創作というのは、本来、そういうものだから。

『現実では果たせないこと』

『現実では実現できないこと』

それらが創作の中ではいくらでも叶えることができるから。

『そのために創作はあるんだ!』

アオはそう言ってたよ。

僕もそう思う。

だからこそ彼女は、創作とは同じでいられない自分を理解しているんだ。

僕と一緒の時間を過ごすために眷属になったら、きっと、

<ミハエルを愛しているアオ>

のままではいられないことが分かってしまうんだろうな。

そしてそれは、彼女にとっては、

『僕と一緒の時間を生きられない』

ことより辛いんだと思う。

僕も辛い。彼女が彼女以外の誰かになってしまうのは、耐えられそうにない。

だったら、たった数十年でも、アオのままで一緒に過ごせればその方がいい。

だから僕達はそれを選択した。

一度眷属になってしまうと人間に戻る方法はないからね。

これまで無数の不幸な事例があった。

<眷属になっても人間の時と変わらずにいられた事例>

は、伝聞の中で、数例、伝えられているだけなんだ。

数字で表すなら、一パーセントにも遠く届かない程度だろうね。

命の形が変わってしまうというのは、そういうことなんだ。

創作ではそんな、

<一パーセントにも満たない奇跡>

でも起こるのかもしれなくても、やり直しが利かないそれでやるわけにはいかないよ。

そういう無謀な真似をしなくても、人間なら普通に実現が可能な範囲の中で最大限の幸せを目指したらいいと思うし、アオもそれを選んでくれたんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい

凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。

カフェバー「ムーンサイド」~祓い屋アシスタント奮闘記~

みつなつ
キャラ文芸
大学生の俺は、まかない飯が絶品のカフェバー「ムーンサイド」でバイトをしている。 ある日特別客としてやってきたダンディ紳士……彼は店長の副業『祓い屋』の依頼人だった! お祓いに悪戦苦闘する店長を見かねた俺は、思わず『お手伝い』してしまう。 全く霊感のない俺は霊からの攻撃を感じることなく、あっさり悪霊を封印してしまった。 「霊感がないって一種の才能なのかも知れないね」と店長に誘われ、祓い屋のアシスタントになった俺は、店長と共に様々な怪奇現象に立ち向かうことになる。 呪われようと祟られようと全くノーダメージという特異体質を活かして余裕の『お仕事』……かと思いきや、何故か毎回メンタルも体力もぎりぎりで苦労の連続! これは、霊力も霊感もないただのアシスタントの俺が、日々祓い屋に寄せられる依頼と格闘する汗と涙の物語である。 ★表紙イラスト・挿絵はイラストレーターの夜市様にお願いしています。 ★この物語はフィクションです。実際の事件や団体、場所、個人などとはいっさい関係ありません。宗教やそれにともなう術式、伝承、神話などについては、一部独自の解釈が含まれます。 ★この作品は「小説家になろう」と「ノベルアップ+」にも掲載しています。 ★R-15は保険です。

順応力が高すぎる男子高校生がTSした場合

m-kawa
キャラ文芸
 ある日リビングでテレビを見ていると突然の睡魔に襲われて眠ってしまったんだが、ふと目が覚めると……、女の子になっていた!  だがしかし、そんな五十嵐圭一はとても順応力が高かったのだ。あっさりと受け入れた圭一は、幼馴染の真鍋佳織にこの先どうすればいいか協力を要請する。  が、戸惑うのは幼馴染である真鍋佳織ばかりだ。  服装しかり、トイレや風呂しかり、学校生活しかり。  女体化による葛藤? アイデンティティの崩壊?  そんなものは存在しないのです。  我が道を行く主人公・圭一と、戸惑いツッコミを入れるしかない幼馴染・佳織が織りなす学園コメディ! ※R15は念のため

『有意義』なお金の使い方!~ある日、高1の僕は突然金持ちになっちゃった!?~

平塚冴子
キャラ文芸
イジメられられっ子、母子家庭、不幸だと思っていた僕は自殺まで考えていた。 なのに、突然被験者に選ばれてしまった。 「いくらでも、好きにお金を使って下さい。 ただし、有意義な使い方を心掛けて下さい。 あなたのお金の使い道を、こちら実験結果としてクライアントに提供させて頂きます。」 華京院 奈落と名乗る青年サポーターが、取り敢えず差し出した1千万円に頭が真っ白くなった…。 有意義なお金の使い方って何だ…? そして…謎の一族…華京院が次々と現れてくる。

【第一部完結】お望み通り、闇堕ち(仮)の悪役令嬢(ラスボス)になってあげましょう!

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「アメリア・ナイトロード、よくも未来の婚約者となるリリス嬢に酷い仕打ちをしてくれたな。公爵令嬢の立場を悪用しての所業、この場でウィルフリードに変わって婚約破棄を言い渡す!」 「きゃー。スチュワート様ステキ☆」  本人でもない馬鹿王子に言いがかりを付けられ、その後に起きたリリス嬢毒殺未遂及び場を荒らしたと全ての責任を押し付けられて、アメリアは殺されてしまう。  全ての元凶はリリスだと語られたアメリアは深い絶望と憤怒に染まり、死の間際で吸血鬼女王として覚醒と同時に、自分の前世の記憶を取り戻す。  架橋鈴音(かけはしすずね)だったアメリアは、この世界が、乙女ゲーム《葬礼の乙女と黄昏の夢》で、自分が悪役令嬢かつラスボスのアメリア・ナイトロードに転生していたこと、もろもろ準備していたことを思い出し、復讐を誓った。  吸血鬼女王として覚醒した知識と力で、ゲームで死亡フラグのあるサブキャラ(非攻略キャラ)、中ボス、ラスボスを仲間にして国盗りを開始!  絵画バカの魔王と、モフモフ好きの死神、食いしん坊の冥府の使者、そしてうじうじ系泣き虫な邪神とそうそうたるメンバーなのだが、ゲームとなんだかキャラが違うし、一癖も二癖もある!? リリス、第二王子エルバートを含むざまあされる側の視点あり、大掛かりな復讐劇が始まる。

理容師・田中の事件記録【シリーズ】

S.H.L
キャラ文芸
床屋の店主である田中が逮捕される物語

処理中です...