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第三幕

そうじゃない事例

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僕は吸血鬼。彼女は人間。

僕の寿命はまだまだ彼女のそれの十倍以上はあると思う。

だから、彼女はほぼ間違いなく、僕を残してこの世を去る。

人間の中には、それを、

<耐えられない悲しみ>

と捉えるのがいるっていうけど、『それが普通』って言う人もいるらしいけど、僕はそうは思わない。

悲しいのはもちろん悲しい。きっと辛くてたまらない気分になると思う。でも、自分と自分以外の誰かの<命の長さ>が違うのは、紛れもない現実だからね。

それを変えてしまうことは吸血鬼にもできない。

確かに、その人間を<眷属>に変えてしまえばかなりの時間を一緒にいられると思う。だけどそれでも、絶対じゃないんだ。

それに、

<眷族に変えられてしまった人>

は、本当に、

『人間だった時と同じ人』

なのかな? 

人間として生まれた人が、限りなく吸血鬼に近い存在に変わってしまって、それで同じでいられるのかな? その人の<人間性>そのものを構成してるのは、

<人間としての命>

そのものだったはずなんだよ。精神活動っていうのは、肉体側のフィードバックにすごく影響されるはずなんだ。

『辛いことがあると胸が痛くなる』

って言うよね。でもそれは、

『胸が痛いっていう感覚があるから自分はそれだけ辛いと感じてるんだ』

っていう実感として再確認してるとは言えないかな?

同じ経験をしても胸が痛くならなかったら、それは、

<同じ辛さ>

なのかな? そう認識できるのかな?

肉体そのものが作り変えられてしまうと、感覚も変わるはずなんだよ。人間は心臓を拳銃で撃たれると大抵死ぬけど、吸血鬼も吸血鬼の眷属も、その程度だと普通は死ねない。痛みに対する耐性も、人間とは比べ物にならなくなるくらい強くなる。

それで本当に、人間だった時と変わらずにいられるのかな……?

そして吸血鬼なら、ほとんど誰でも、

<そうじゃない事例>

っていうのを目撃してきてる。

<眷属になったことで、人間だった頃とはまったく別人になってしまった事例>

っていうのをね。

生まれついての吸血鬼の場合はその感覚の下で育つから途中で変わってしまうわけじゃないし変化はしないにしても、途中から変わってしまうことで受ける影響は決して小さくないと思う。

そうして眷属になった後、しばらくは変わらずにいられたけど、でも時間が経つほどに段々と変わってきてしまってすごく優しかったのが冷酷になって、他人の命を奪うことも平気になって。

だけどその行いがやがてバンパイアハンターに嗅ぎ付けられてしまって、主人だった吸血鬼共々、狩られてしまったってことが、何度もあったんだよ。

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