ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

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第三幕

回想録 その1

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僕が覚えてる最も古い記憶は、無数の人間の死体の中をただ歩いてるというものだった。

たぶん、人間達が<スターリングラード攻防戦>と呼んでいる、第二次世界大戦中の、ドイツとソ連の攻防の最中だったんだと思う。

そこを僕は、両親と共に移動していたんだ。当時、両親と僕が住んでいた辺りも戦闘に巻き込まれ、それを避けるための移動だったんだろうな。

本当に数えきれないくらいの人間達が血を流して倒れているのに、僕は、吸血鬼らしく『もったいない』と思うんじゃなくて、ただ、

『いやだな……』

って思ってたのを覚えてる。

中には、あの頃の僕とそんなに変わらない子供の姿もあったし、赤ん坊を抱いたまま亡くなってる母親らしき女性の姿もあった。

それを見るのが嫌で嫌で、僕は目を瞑って歩くようにした。なのに、目を瞑ってても、今度は強烈な<臭い>が、嫌でもその光景を僕の脳に焼き付けてくるんだ。

それこそ、目で見てるみたいにはっきりとしたビジョンで。

さらには、時折聞こえてくる銃声や爆発音。ドイツに抵抗するソ連兵の狙撃者がドイツの将校を射殺してみせたと、人間達が口々に叫んでいたのも聞こえた。

僕達吸血鬼は、人間には察知されないように気配を消すことができるから、流れ弾にでも当たらない限り危険はない。もっとも、もし当たったとしても、拳銃弾やライフル弾なんかじゃ、僕達の命を終わらせることはできない。

だから両親も別に焦ったり緊張したりはしてなかったし、僕も『怖い』とは思わなかった。ただただ『嫌』だったんだ。

その地に充満した<死の臭い>が。

それから僕達は二日掛けてのどかな農村へとやってきた。

だけどそこも決して居心地は良くなったらしい。たぶん、<余所者>に居着かれるのは嫌だったんだろうな。そこまでは戦火も及んでなかったんだとしても、世の中そのものが不穏な空気に包まれてただろうから。

となれば、当然、また移動をすることになる。

でも、その途中、父は何度もいなくなった。いつもだいたい一週間くらい。長い時には一ヶ月ほどいないこともあった。

と言うのも、一応は科学者でもあった父は、行った先々で人間の研究に協力していたらしい。それによって路銀を得ていたのもあったようだ。

そんな毎日は、僕にとってはそれほど辛いものでもなかった。父も母も優しかったし、僕を大切にしてくれたから。

しかも、吸血鬼である僕には人間の友達はそうそう得られるものじゃないのも、薄々感じていたんだろうな。

母が一緒に歌を歌ってくれたり、ダンスをしてくれたり、絵本を読み聞かせてくれたり、ボールで遊んでくれたり、料理を教えてくれたりして、遊んでくれてたから、退屈はしなかったよ。

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