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第二幕
エンディミオンの日常 その11
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吸血鬼とダンピールと人間、三つ巴の確執は、結局、<無知>がもたらした行き違いでしかなかった。
吸血鬼は<吸血>を行わなければ生きられないと思い込んでいたことで人間に対する吸血や眷属化を正当化し、
ダンピールは、吸血鬼がただ戯れに自分達を作りだして弄んでいるだけだと思い込んでいたことで一方的に憎悪を募らせ、
人間は、吸血鬼やダンピールを、人間の感情や気持ちなどまったく理解できないし理解もしようとしない怪物であると思い込んで一方的に恐れてきた。
いずれも、決して正しくはなかった。本当に単なる行き違いだったのだ。
かつてはそれを知るための方法もなかったことで『仕方なかった』のかもしれないが、今ではそうでないことが分かっている。分かってきている。にも拘わらずそれを知ろうとせずに理解しようとせずにただ『そうだったから』というだけでいがみ合うことに何の意味があるというのだろう。
回避可能な不幸を、目先の感情に囚われることで自ら呼び寄せてしまうことを<愚か>と言わずして何と言うのか。
さくらは、そんな愚かな真似をしたくなかったし、見過ごしたくもなかった。
それでもなお、エンディミオン自身は、苛烈すぎる過去を生きてきたがゆえに認識を改めることはいまだにできていなかった。
さくらは、そのことも理解している。
ただ、それでも、今のエンディミオンなら、気持ちを落ち着かせられるアプローチ方法が分かっている。
彼以外の、吸血鬼に対して恨みを抱いているダンピールを止めることはできなくても、エンディミオンに対しては有効な方法がある。
それがあるのが分かっていながら手を打たないというのも、<怠惰>であり<甘え>だろう。
こうして一緒に風呂に入って寛ぐというのも、その方法の一つだった。彼にとって<守りたいもの><守るべきもの>、<彼にとって安らげる存在>を強く意識させることが、彼に大きなメリットを提供してくれる。
復讐を後回しにしても構わないという気分にさせてくれる。
それが結局、一番、被害を抑えることに繋がる。人間もそうだが、ダンピールもただの綺麗事に過ぎない理念だけでは動かない。
具体的な<メリット>の提示が必要なのだ。
そして、彼を抑えることで、新たな犠牲者を出すことも抑えられる。
『危険なダンピールなど、退治してしまえ!』
では、確実に被害が増えるだけだ。改めて言うが、人間が使える<力>では、彼を確実に倒すことは難しい。それを実現するには、途方もない犠牲が伴うだろう。
吸血鬼は<吸血>を行わなければ生きられないと思い込んでいたことで人間に対する吸血や眷属化を正当化し、
ダンピールは、吸血鬼がただ戯れに自分達を作りだして弄んでいるだけだと思い込んでいたことで一方的に憎悪を募らせ、
人間は、吸血鬼やダンピールを、人間の感情や気持ちなどまったく理解できないし理解もしようとしない怪物であると思い込んで一方的に恐れてきた。
いずれも、決して正しくはなかった。本当に単なる行き違いだったのだ。
かつてはそれを知るための方法もなかったことで『仕方なかった』のかもしれないが、今ではそうでないことが分かっている。分かってきている。にも拘わらずそれを知ろうとせずに理解しようとせずにただ『そうだったから』というだけでいがみ合うことに何の意味があるというのだろう。
回避可能な不幸を、目先の感情に囚われることで自ら呼び寄せてしまうことを<愚か>と言わずして何と言うのか。
さくらは、そんな愚かな真似をしたくなかったし、見過ごしたくもなかった。
それでもなお、エンディミオン自身は、苛烈すぎる過去を生きてきたがゆえに認識を改めることはいまだにできていなかった。
さくらは、そのことも理解している。
ただ、それでも、今のエンディミオンなら、気持ちを落ち着かせられるアプローチ方法が分かっている。
彼以外の、吸血鬼に対して恨みを抱いているダンピールを止めることはできなくても、エンディミオンに対しては有効な方法がある。
それがあるのが分かっていながら手を打たないというのも、<怠惰>であり<甘え>だろう。
こうして一緒に風呂に入って寛ぐというのも、その方法の一つだった。彼にとって<守りたいもの><守るべきもの>、<彼にとって安らげる存在>を強く意識させることが、彼に大きなメリットを提供してくれる。
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それが結局、一番、被害を抑えることに繋がる。人間もそうだが、ダンピールもただの綺麗事に過ぎない理念だけでは動かない。
具体的な<メリット>の提示が必要なのだ。
そして、彼を抑えることで、新たな犠牲者を出すことも抑えられる。
『危険なダンピールなど、退治してしまえ!』
では、確実に被害が増えるだけだ。改めて言うが、人間が使える<力>では、彼を確実に倒すことは難しい。それを実現するには、途方もない犠牲が伴うだろう。
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