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第二幕

エンディミオンの日常 その10

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さくらも体を洗い、エンディミオンと共に浴槽に浸かった。

家側の壁の上半分が窓になっていて、エンディミオンと恵莉花えりかが丹精込めて手入れした草花が包み込んでくれる印象がある。

さくらも、この風呂が好きだった。夫と娘が作り上げた温室の中にあるこの風呂が。

そこの草花を見ていると、彼の精神状態まで見える気がする。

そして今は彼はとても落ち着いて穏やかだというのが伝わってくる。

彼がもう二度と復讐を行わなくても済むような家庭を維持したいとさくらは心の底から思っていた。

他人から見れば極悪非道な殺戮者なのかも知れない。けれど、その彼が今は復讐を思いとどまれているのも事実。

ただ、同時に、彼と同じく<バンパイア・ハンター>だったダンピール達は殺戮をやめられるようになったかと言われればそうではないことも事実であり、だから一律で彼と同じ境遇の者達をエンディミオンと同じように扱うべきかどうかは、さくらには答を出せなかった。

とは言え、力尽くでダンピールを止められるか?と問われれば、それも答えることができない。

事実、人間だけでダンピールを止められた事例はない。

止めることができた事例については必ず、吸血鬼の協力があった。

人間にとって吸血鬼は大きな脅威ではあるものの、だからといって吸血鬼を狩るダンピールが味方かと言われれば、エンディミオンの事例を挙げるまでもなくまったくそんなこともない。

さりとて、人間の力では吸血鬼もダンピールも排除はできない。

人間にとって危険なウイルスが完全には除去できないのと同じく。

しかも吸血鬼やダンピールは、ある程度は人間にも理解可能な思考を行う知的生命体であり、自身と自身にとって大切な者のためなら命を賭して戦うこともする。

つまり、もし人間が吸血鬼やダンピールを排除しようとするなら、彼らとて全力でもって抵抗する。場合によっては人間を滅ぼすことになっても。

衝突を選べば、その被害は、これまでの歴史の中での全ての犠牲者を遥かに上回る規模になるだろう。そして、それだけの犠牲を出してもおそらく人間は勝てない。吸血鬼もダンピールも完全には排除できない。

ゆえに、危険を内包しつつも、共に生きていくしかないのだ。

そんな中で、吸血鬼は、人間との共存に舵を切った。人間の側が敵対行動を取らない限り、吸血鬼の側から攻撃は仕掛けない。人間にもいるように一部の<犯罪者>的な存在を除けば。

ならば、ダンピールはどうか?

ダンピールだからといって必ず危険な存在になるとは限らないのというのは、悠里ユーリ安和アンナの事例で確認された。

後は、人間の側がどうするかということである。

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