ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

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第二幕

エンディミオンの日常 その8

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「ただいま」

「……おかえり…」

深夜十二時過ぎ。仕事から帰ってきたさくらを、エンディミオンが表の温室で出迎えた。夜は夜でできることはあるので、彼の仕事は終わらない。

なお、月城つきしろ家の住宅は、アオが大家である借家で、しかも建築時にアオが思い切り真面目にふざけて作ったものだった。

ハウスメーカー側の、

「あまり突飛な作りにすると売る時に困りますよ」

という忠告には『売る気はないですから』と耳を貸さず、とにかく好き勝手に設計し、それを実現してもらったものだった。

その一つが、玄関前の温室と、風呂を内包する裏の温室である。

裏の温室は、風呂場を家の躯体とは別にすることで、湿気などにより家本体が傷むことを避ける目的もあったものの、今の建築技術や建築材料ならそれほど気にする必要もなかったらしい。

けれど、アオはまったく後悔していない。自分が選んで好き勝手したのだから、好き勝手できたのだから、たとえ数百万円分の<余分な出費>だろうと、何も後悔する理由がなかった。

それに、緑に囲まれた風呂は、一種の露天風呂に近い形になっていて、さくら達にとっても楽しみかつ自慢になっていた。

そして、実は、エンディミオンにとっても。

自分と恵莉花えりかが丹精込めて世話をした草花達に囲まれてゆったりと風呂に浸かっていると、自分がダンピールとして生まれたことなどどうでもいいような気にさえなってくる。

けれど同時に、

『何を考えている……! 俺はまだ、<吸血鬼やつら>を許しちゃいない……!』

とも思う。

そうやって自分に言い聞かせてはいるものの、だからといって実行には移さない。移せずにいる。

もしそれを実行に移せば、

『これを失うことになるのか……』

ということも事実だと分かってしまうからだ。

そして今、仕事を終えて帰ったさくらを迎えた<玄関前の温室>も、エンディミオンと恵莉花によって見事な<芸術品>のようなそれになっていた。

なお、玄関前の温室は、実はそれ自体が玄関のような役目もしている。

決して敷地面積が広くなかった上に、現在の建築基準法に合わせればどうしても狭小住宅になってしまうことで、敢えて玄関とリビングの区切りを失くし、ドアを開ければ部屋全体が見渡せるような作りにした代わりに、玄関前に温室を作りそれ自体を実質的な<玄関>とする手法が取られた。

実際、郵便や宅配の荷物の受け渡しなどは、この温室で済ますようにしている。

その際、エンディミオンが草花の手入れをしている場合もあるものの、当然、彼は気配を消して人間には気付かれないようにしている。

実に、起きている時間の三分の一を、この玄関先の温室で過ごしていたりするのだった。

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