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第二幕
エンディミオンの日常 その7
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生粋の<復讐者>だったエンディミオンは、今は、
<囚われの身>
である。
<家庭という牢獄>に囚われているのが、今の彼なのだ。
世の中には、
『大切な人を理不尽に殺されて、冷静でいられるはずがない! だから復讐は止められない!』
などと言う者がいる。
しかし、だとすればなおのこと、復讐は認められてはいけないはずだ。
<冷静でない者>が、果たして、
『無関係な人間を誰一人巻き添えにすることなく、正確に確実に<仇>だけを討ち取ることができる』
と、本当に思うのか? それがもしできるのであれば、その者は、
『極めて冷静である』
と言えなくはないか?
極めて冷淡で冷酷で頭も切れる<復讐者>であったエンディミオンでさえ、本人の復讐とは直接関係のない者を何人も犠牲にしてきている。
これが、
<復讐という行為の現実>
と言えるだろう。
<大切な人を理不尽に奪われたことで冷静でいられない正気でいられない自分を抑えることができない者>
にとっては、むしろ、
『復讐を果たすためならどんな犠牲がでても構わない』
のが、<普通>ではないか?
エンディミオンの場合は、彼自身が<被害者>の立場だったが、それでも、
『復讐を果たすためならどんな犠牲がでても構わない』
と考えていたし、実際に多くの犠牲を出してきた。
復讐が許されないのは、
『復讐は何も生まない』
や、
『復讐は虚しいだけ』
などという上辺だけの綺麗事が根拠ではない。
『復讐者が生み出すかもしれない新たな被害を未然に防ぐため』
という、徹頭徹尾、合理的な安全保障上の理由なのだ。実際にこれまで<復讐者>によって生じた被害を考慮に入れればこそのものである。
そもそも、世の<犯罪>にも、<加害者側の身勝手な復讐>として行われたものが少なくないはずだ。
しかも、エンディミオン自身、いまだに、自らの行いを後悔も反省もしていない。
彼が復讐を思いとどまれているのは、<家庭という牢獄>に囚われ、<家族という看守>に監視されていればこそとも言える。
彼の根源を成す<復讐心>を否定され続けながら。
そして今日も、彼は植物の手入れをする。
家族の前ではいまだに素直にはなれないものの、草花に触れている時だけは、彼は本当に穏やかになれた。彼自身、自分がこれほどまでに植物に対して心惹かれるとは、さくらと一緒に暮らし始めるまでは知らなかった。
確かに、ミハエルを見張るために公園の木に体を預けていると不思議と落ち着いた気分になれたのは分かっていたものの、まさかこれほどまでとは……
しかしそんな戸惑いももう十数年も昔の話。
今の彼は、冷淡なように見えて、分かる者には分かる穏やかな表情で、草花と向き合っていたのだった。
<囚われの身>
である。
<家庭という牢獄>に囚われているのが、今の彼なのだ。
世の中には、
『大切な人を理不尽に殺されて、冷静でいられるはずがない! だから復讐は止められない!』
などと言う者がいる。
しかし、だとすればなおのこと、復讐は認められてはいけないはずだ。
<冷静でない者>が、果たして、
『無関係な人間を誰一人巻き添えにすることなく、正確に確実に<仇>だけを討ち取ることができる』
と、本当に思うのか? それがもしできるのであれば、その者は、
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と言えなくはないか?
極めて冷淡で冷酷で頭も切れる<復讐者>であったエンディミオンでさえ、本人の復讐とは直接関係のない者を何人も犠牲にしてきている。
これが、
<復讐という行為の現実>
と言えるだろう。
<大切な人を理不尽に奪われたことで冷静でいられない正気でいられない自分を抑えることができない者>
にとっては、むしろ、
『復讐を果たすためならどんな犠牲がでても構わない』
のが、<普通>ではないか?
エンディミオンの場合は、彼自身が<被害者>の立場だったが、それでも、
『復讐を果たすためならどんな犠牲がでても構わない』
と考えていたし、実際に多くの犠牲を出してきた。
復讐が許されないのは、
『復讐は何も生まない』
や、
『復讐は虚しいだけ』
などという上辺だけの綺麗事が根拠ではない。
『復讐者が生み出すかもしれない新たな被害を未然に防ぐため』
という、徹頭徹尾、合理的な安全保障上の理由なのだ。実際にこれまで<復讐者>によって生じた被害を考慮に入れればこそのものである。
そもそも、世の<犯罪>にも、<加害者側の身勝手な復讐>として行われたものが少なくないはずだ。
しかも、エンディミオン自身、いまだに、自らの行いを後悔も反省もしていない。
彼が復讐を思いとどまれているのは、<家庭という牢獄>に囚われ、<家族という看守>に監視されていればこそとも言える。
彼の根源を成す<復讐心>を否定され続けながら。
そして今日も、彼は植物の手入れをする。
家族の前ではいまだに素直にはなれないものの、草花に触れている時だけは、彼は本当に穏やかになれた。彼自身、自分がこれほどまでに植物に対して心惹かれるとは、さくらと一緒に暮らし始めるまでは知らなかった。
確かに、ミハエルを見張るために公園の木に体を預けていると不思議と落ち着いた気分になれたのは分かっていたものの、まさかこれほどまでとは……
しかしそんな戸惑いももう十数年も昔の話。
今の彼は、冷淡なように見えて、分かる者には分かる穏やかな表情で、草花と向き合っていたのだった。
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