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第二幕

椿の日常 その24

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<普通の人間>から見れば、蒼井家は異様にも見えるのかもしれない。面倒臭い話を延々と子供の前で話す親は、<普通>ではないのかもしれない。

けれど、それは一部しか見ていないからそう思えるだけだろう。

子供達がアオやミハエルの話に耳を傾けるのは、

<話に耳を傾けるに値する親>

だからである。

単純に、それだけなのだ。

こういう<面倒臭い話>もするけれど、その十倍、他愛ないアニメや漫画やテレビ番組の話で盛り上がっている。

と同時に、子供達の話にも耳を傾けるから、子供達もその真似をしてくれているに過ぎない。

こうやって、大事なことを伝え、そして、それがきちんと伝わっているかどうかを確かめる。

親の前で<いい子のフリ>をしてるだけじゃないことが分かる。

月城つきしろ家で確認されたことが、蒼井家でも再現されているだけなのだ。

月城つきしろ家でも蒼井家でも、あからさまな<反抗期>はなかった。

それは結局、<反抗しなければならない理由>がなかったからである。

自分を愛してくれて、そして、自分の言葉に耳を傾けてくれて、<一個の独立した人格を持つ存在>として敬ってくれるのだから、反発する理由がない。

意見が対立して結果として聞き入れられることがないことも多いものの、聞けない時は何故聞けないのかを丁寧に説明してくれる。

だから納得はできなくても、理解はできる。

それは、社会に出て仕事をする上でも大事なことのはずである。きちんと話し合って理解してそして対処する。

この当たり前のことを家庭内でも実践している。ゆえに月城つきしろ家の長男であるあきらも、実年齢は二十歳にもなっていないにも関わらず、<実際には自分よりずっと年上の後輩>の指導すら任されるに至っていた。

しかも、

<話が丁寧で的確で分かりやすくて優しい先輩>

として慕われていたりもするそうだ。

本人としては、母親であるさくらや、自分の正体を知りつつ実の子のように接してくれたアオやミハエルにしてもらったことをほぼそのまま真似しているだけのつもりにも拘わらず。

そして椿つばきも、すでに真似をしつつある。

『ノリが悪い』

とか、

『真面目過ぎてつまらない』

とか、そういう風に言われることはあっても、それで嫌な思いをすることはあっても、家に帰れば笑顔になれる。ホッとする。そうしてリフレッシュして、また翌日、学校に行ける。

「ねえねえ、聞いて! 昨日、お母さんったらさ~!」

遊び部屋で一緒にモザイク模様を作っていた友達が<家庭の愚痴>をこぼしても、それに耳を傾けられる。

そんな椿と一緒にいると『家族といるよりホッとできる』からと、その子達は今も友達でいてくれる。

「そうなんだ。大変だったね」

穏やかに応えながら、椿はそれで満足していたのだった。

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