ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

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第二幕

椿の日常 その17

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家族がリビングに集まっていることで、椿つばきは、ふと、疑問に思っていたことを口にした。

「ねえ、お母さん。お母さんはいつも、『子供がどんな風に育つかは親の責任』って言うけど、この前見たアニメで、すっごく立派で人望も厚いお父さんと、すっごく優しいけど超の付くド天然のお母さんの息子が引きこもっちゃった話やってたけど、あれも両親の所為だと思う?」

娘の、そういう<面倒臭そうな質問>にも、アオは動じない。

「ああ、あれね。いい話だったよね」

笑顔でそう切り出した後、

「でも、ママはあれを見て、『ああ、息子がこうなったのは、両親の所為だなあ』って思ったよ」

きっぱりと言い切った。すると椿は、

「でも、すっごくいいお父さんとお母さんだったと思うよ? どうしてそれで<両親の所為>になるの?」

素直な疑問をぶつける。

それに対しても、アオはむしろ笑顔を浮かべながら、

「あれは、『立派過ぎる両親の子供だっていうことがプレッシャーになって心が折れちゃった』ってパターンだと思う」

と答えた上で、

「でも、引きこもってたのは一時いっときだけでしょ? その後、何年かはかかったみたいだけどちゃんと引きこもりから脱したじゃん。それは、彼の両親が子供と向き合うことをやめなかったからだと思う」

とも。さらに。

「それに、彼の場合は心が折れて一時的に引きこもってただけで、別に何か事件を起こしたとかじゃないしさ」

その言葉に、椿は、

「あ……」

と、何かに気付いたように声を漏らす。そこにアオは続ける。

「思春期の頃ってさ、やっぱ、いろいろ本人も考えちゃってキャパオーバーになっちゃうこともあるんと思うんだ。その決定的な原因を作ったのは確かに両親だったとママは思う。特にあのお母さんについては、息子の話をまともに聞いてなかったじゃん。てか、意思疎通が難しいほどのド天然だったよね。それが、悩んでる息子にとってはキツかったんだろうね。心折れるくらいには。

でもさ、人間だったら、たとえ親子でも完璧に分かり合えるわけじゃないんだよ。特に、思春期の頃の不安定でいっぱいいっぱいな精神状態の時には、あの両親はヘビーだと思う。だから彼は自分の気持ちを処理しきれなかった。

だけど、あの両親はそんな息子を見捨てなかった。息子と向き合うことを諦めずに、たとえ時間はかかってもちゃんと待っててくれたじゃん。息子が自分の気持ちについて処理できるまでさ。なんて言うか、パソコンがデータを処理しきれなくてむっちゃくちゃ遅くなってる状態で、でも、すんごい遅くても確かに処理は行われることに、ちゃんと見てるからこそ気付いて、処理が終わるまで見限らずに待っててくれたからこそ、決定的にダメにならずに済んだんだと思う。

それで言えば本当に立派な両親だよ。

あれは、

<立派過ぎる両親を持ったことで一時的に心折れちゃった息子と、そんな息子を信じて待っててくれた愛情あふれる両親の物語>

だったんじゃないの? だから、時間はかかってもちゃんと解決した。しっかり道理に合ってる話だと思うよ。

問題なのは、そこで諦めて子供と向き合うことも放棄して、見て見ぬフリをすることだと思うんだ」

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