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第二幕

椿の日常 その11

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「お母さん、おやすみ」

「あ、もうそんな時間? ちょっとまってて。今日は余裕あるから」

夜の十時前。椿つばきが寝る前の挨拶をすると、アオは書きかけの原稿を保存して仕事部屋から出てきた。

「一緒に寝よ」

「うん♡」

母親の申し出に、椿が相貌を崩す。『寝る』と言ってもアオにとってはこれからが仕事の本番なので本当に寝るわけではないものの、椿が寝付くまで一緒に横になってくれるということだ。

これは、蒼井家の子供達にとっては普通のことだった。最初は月城つきしろ家で始まったことで、子供達が自ら『もういい』と言い出すまでは、月城つきしろ家ではさくらかエンディミオンが、蒼井家ではアオかミハエルのどちらかが添い寝をしてくれるのが普通だった。

世間ではそれを<甘やかし>だとする意見も多いものの、アオはそうは思わない。

「だってさあ、子供が一緒に寝たいって言ってんのに『自分の時間が欲しい』とかっていう理由で聞き入れないのは、親の側の甘えじゃん? 子供が寝付くまでのたった三十分かそこらの時間も割けないとか」

そう言って、締め切りが厳しいとかいう事情でもない限りは添い寝をすることにしていた。

アオは言う。

「私はさ、<甘やかし>っていうのは、結局、<親の側の甘え>だと思うんだよ。子供が自分でやりたいって言ってんのに、二度手間になるからとか見守るのが面倒だとかいう理由で親が全部やっちゃったりすんのが<甘やかし>だと思うんだ。

でもさ、私は、たとえ二度手間になっても見守る手間を掛けても、子供達が自分でやりたいって言い出したことはなるべくやってもらおうと思ってる。

だけど、その代わり、子供が甘えたい時には気が済むまで甘えてほしいんだ。そう、『気が済むまで』っていうのが肝だよ。さくらんとこも、あきら恵莉花えりか秋生あきおが気が済むまで甘えたら、今じゃ立派に自立心も育ってきてるよ。『気が済んだ』からね。

子供が満たされてもいないうちから突き放そうとするから<承認欲求>ってのを拗らせたりするんじゃないの? しかも、親が構ってくれないから他人にそれを求めたりするんじゃないの?

子供をこの世に勝手に送り出したのは親じゃん。親が子供が満足するまで相手しなくて、それで尻拭いを他人に押し付けようなんてのは、<甘え>以外の何ものでもないじゃん。

だから私は、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきも、満足するまで相手をするよ。甘えさせてあげるよ。

よく、『甘やかすとつけあがる』とか言うのもいるけど、満たされない状態で放って置かれたからたまに甘えさせようとすると、それまでの分を取り戻そうとして際限なく甘えようとするんでしょ。

洸と恵莉花と秋生でそれについては確認済みだよ」

そうして今日は、余裕もあるんだからと、添い寝を申し出たのだった。

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