341 / 571
第二幕
椿の日常 その11
しおりを挟む
「お母さん、おやすみ」
「あ、もうそんな時間? ちょっとまってて。今日は余裕あるから」
夜の十時前。椿が寝る前の挨拶をすると、アオは書きかけの原稿を保存して仕事部屋から出てきた。
「一緒に寝よ」
「うん♡」
母親の申し出に、椿が相貌を崩す。『寝る』と言ってもアオにとってはこれからが仕事の本番なので本当に寝るわけではないものの、椿が寝付くまで一緒に横になってくれるということだ。
これは、蒼井家の子供達にとっては普通のことだった。最初は月城家で始まったことで、子供達が自ら『もういい』と言い出すまでは、月城家ではさくらかエンディミオンが、蒼井家ではアオかミハエルのどちらかが添い寝をしてくれるのが普通だった。
世間ではそれを<甘やかし>だとする意見も多いものの、アオはそうは思わない。
「だってさあ、子供が一緒に寝たいって言ってんのに『自分の時間が欲しい』とかっていう理由で聞き入れないのは、親の側の甘えじゃん? 子供が寝付くまでのたった三十分かそこらの時間も割けないとか」
そう言って、締め切りが厳しいとかいう事情でもない限りは添い寝をすることにしていた。
アオは言う。
「私はさ、<甘やかし>っていうのは、結局、<親の側の甘え>だと思うんだよ。子供が自分でやりたいって言ってんのに、二度手間になるからとか見守るのが面倒だとかいう理由で親が全部やっちゃったりすんのが<甘やかし>だと思うんだ。
でもさ、私は、たとえ二度手間になっても見守る手間を掛けても、子供達が自分でやりたいって言い出したことはなるべくやってもらおうと思ってる。
だけど、その代わり、子供が甘えたい時には気が済むまで甘えてほしいんだ。そう、『気が済むまで』っていうのが肝だよ。さくらんとこも、洸や恵莉花や秋生が気が済むまで甘えたら、今じゃ立派に自立心も育ってきてるよ。『気が済んだ』からね。
子供が満たされてもいないうちから突き放そうとするから<承認欲求>ってのを拗らせたりするんじゃないの? しかも、親が構ってくれないから他人にそれを求めたりするんじゃないの?
子供をこの世に勝手に送り出したのは親じゃん。親が子供が満足するまで相手しなくて、それで尻拭いを他人に押し付けようなんてのは、<甘え>以外の何ものでもないじゃん。
だから私は、悠里も安和も椿も、満足するまで相手をするよ。甘えさせてあげるよ。
よく、『甘やかすとつけあがる』とか言うのもいるけど、満たされない状態で放って置かれたからたまに甘えさせようとすると、それまでの分を取り戻そうとして際限なく甘えようとするんでしょ。
洸と恵莉花と秋生でそれについては確認済みだよ」
そうして今日は、余裕もあるんだからと、添い寝を申し出たのだった。
「あ、もうそんな時間? ちょっとまってて。今日は余裕あるから」
夜の十時前。椿が寝る前の挨拶をすると、アオは書きかけの原稿を保存して仕事部屋から出てきた。
「一緒に寝よ」
「うん♡」
母親の申し出に、椿が相貌を崩す。『寝る』と言ってもアオにとってはこれからが仕事の本番なので本当に寝るわけではないものの、椿が寝付くまで一緒に横になってくれるということだ。
これは、蒼井家の子供達にとっては普通のことだった。最初は月城家で始まったことで、子供達が自ら『もういい』と言い出すまでは、月城家ではさくらかエンディミオンが、蒼井家ではアオかミハエルのどちらかが添い寝をしてくれるのが普通だった。
世間ではそれを<甘やかし>だとする意見も多いものの、アオはそうは思わない。
「だってさあ、子供が一緒に寝たいって言ってんのに『自分の時間が欲しい』とかっていう理由で聞き入れないのは、親の側の甘えじゃん? 子供が寝付くまでのたった三十分かそこらの時間も割けないとか」
そう言って、締め切りが厳しいとかいう事情でもない限りは添い寝をすることにしていた。
アオは言う。
「私はさ、<甘やかし>っていうのは、結局、<親の側の甘え>だと思うんだよ。子供が自分でやりたいって言ってんのに、二度手間になるからとか見守るのが面倒だとかいう理由で親が全部やっちゃったりすんのが<甘やかし>だと思うんだ。
でもさ、私は、たとえ二度手間になっても見守る手間を掛けても、子供達が自分でやりたいって言い出したことはなるべくやってもらおうと思ってる。
だけど、その代わり、子供が甘えたい時には気が済むまで甘えてほしいんだ。そう、『気が済むまで』っていうのが肝だよ。さくらんとこも、洸や恵莉花や秋生が気が済むまで甘えたら、今じゃ立派に自立心も育ってきてるよ。『気が済んだ』からね。
子供が満たされてもいないうちから突き放そうとするから<承認欲求>ってのを拗らせたりするんじゃないの? しかも、親が構ってくれないから他人にそれを求めたりするんじゃないの?
子供をこの世に勝手に送り出したのは親じゃん。親が子供が満足するまで相手しなくて、それで尻拭いを他人に押し付けようなんてのは、<甘え>以外の何ものでもないじゃん。
だから私は、悠里も安和も椿も、満足するまで相手をするよ。甘えさせてあげるよ。
よく、『甘やかすとつけあがる』とか言うのもいるけど、満たされない状態で放って置かれたからたまに甘えさせようとすると、それまでの分を取り戻そうとして際限なく甘えようとするんでしょ。
洸と恵莉花と秋生でそれについては確認済みだよ」
そうして今日は、余裕もあるんだからと、添い寝を申し出たのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
結婚までの120日~結婚式が決まっているのに前途は見えない~【完結】
まぁ
恋愛
イケメン好き&イケオジ好き集まれ~♡
泣いたあとには愛されましょう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
優しさと思いやりは異なるもの…とても深い、大人の心の奥に響く読み物。
6月の結婚式を予約した私たちはバレンタインデーに喧嘩した
今までなら喧嘩になんてならなかったようなことだよ…
結婚式はキャンセル?予定通り?それとも…彼が私以外の誰かと結婚したり
逆に私が彼以外の誰かと結婚する…そんな可能性もあるのかな…
バレンタインデーから結婚式まで120日…どうなっちゃうの??
お話はフィクションであり作者の妄想です。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―
島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。
オレは視えてるだけですが⁉~訳ありバーテンダーは霊感パティシエを飼い慣らしたい
凍星
キャラ文芸
幽霊が視えてしまうパティシエ、葉室尊。できるだけ周りに迷惑をかけずに静かに生きていきたい……そんな風に思っていたのに⁉ バーテンダーの霊能者、久我蒼真に出逢ったことで、どういう訳か、霊能力のある人達に色々絡まれる日常に突入⁉「オレは視えてるだけだって言ってるのに、なんでこうなるの??」霊感のある主人公と、彼の秘密を暴きたい男の駆け引きと絆を描きます。BL要素あり。
九龍懐古
カロン
キャラ文芸
香港に巣食う東洋の魔窟、九龍城砦。
犯罪が蔓延る無法地帯でちょっとダークな日常をのんびり暮らす何でも屋の少年と、周りを取りまく住人たち。
今日の依頼は猫探し…のはずだった。
散乱するドラッグと転がる死体を見つけるまでは。
香港ほのぼの日常系グルメ犯罪バトルアクションです、お暇なときにごゆるりとどうぞ_(:3」∠)_
みんなで九龍城砦で暮らそう…!!
※キネノベ7二次通りましたとてつもなく狼狽えています
※HJ3一次も通りました圧倒的感謝
※ドリコムメディア一次もあざます
※字下げ・3点リーダーなどのルール全然守ってません!ごめんなさいいい!
表紙画像を十藍氏からいただいたものにかえたら、名前に‘様’がついていて少し恥ずかしいよテヘペロ
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる