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第二幕

秋生の日常 その22

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今回、授業中に枝毛を切っていて指導を受けた美登菜みとなだったが、おそらく、そう遠くないうちに同じようなことで指導を受けたりもするだろう。

けれど、人間というのはそういうもののはずだ。

一度や二度、叱られたくらいで完全に治まることはそれほど多くない。自分自身、覚えがあるはずだ。注意されたりしたにも拘わらず、懲りずに同じことをしてしまったということが。

えてしてそういうものである。

だから今後も何度かこういうことがあるかもしれない。それでも秋生は、美登菜を見捨てたりはしないだろう。

『そういうものだ』

ということを知っているがゆえに。

たとえ同じことを何度か繰り返すことがあったとしても、美登菜が本質的に他人を思い遣れるタイプであることには変わりなく、何より、人間には誰しも<欠点>と言える部分がある。

授業中に、つい、余計なことをしてしまうというのは、美登菜の<欠点>なのだろう。

とは言え、それは、他の美点を帳消しにして余りあるほどのものでは決してなく、彼女のことを見限らなければいけないほどの問題ではなかった。

少なくとも、秋生にとっては。

そんなわけで、今日は麗美阿れみあも図書委員としての役目もなく、四人で一緒に下校することになった。

美織みおりも、美登菜も、麗美阿も、四人でいるこの時間が何よりだった。最初の頃こそあまり乗り気でなかった麗美阿さえ、この時間を大切にしたいと、口にこそ出さないものの思っている。

そして、三人がそれを必要としていることを、秋生も感じていた。

『この中の誰かと結婚する』

そんなことまでは今の時点ではまったくピンとこないものの、母親のさくらに釘を刺されたように、

『我慢できなくなってもちゃんと避妊はすること』

などと言われるまでもなくそういう段階になることさえピンとこないものの、こうして四人でいる時間そのものは、決して不快ではなかった。

少なくとも彼女達を蔑ろにしなければいけない理由もない。

秋生は思う。

『そうか。僕は、彼女達と接することで、<他人との関わり方>を学んでいるんだな……』

彼がそんな大人びた考え方ができるのは、母親のさくらや、アオや、ミハエルを見てきているからである。さくら達のものの考え方を身近で見てきているから、意識しないうちに身に付いていたのだ。

『僕がこうやって彼女達と上手く付き合えているのは、母さんやアオさんやミハエルさんのおかげなんだろうな……』

そんな風に思うと、自然と、母親やアオ達に対して尊敬の念を抱くことができるし、言葉にも耳を傾けようと思えるのだった。

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