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第二幕

安全保障上の観点から

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アオが言った通り、ミハエル達が復讐を認めないのは、何よりも、

『新たな犠牲者を出さない』

事が目的だった。フィクションで描かれるような、

<誰も巻き込まない、絶対に犠牲者を出さない復讐>

なんてものが存在するはずがないからである。

改めて言うが、

『他人の身勝手な復讐に、自分や自分の家族が巻き込まれないようにする』

という、安全保障上の観点からも認められてはいけないのだ。

これを肝に命じなくてはいけない。

復讐を認めるなら、自分や、自分の大切な誰かが、まったく無関係な他人の復讐に巻き込まれて被害を受けることも認めなくてはいけなくなる。

フィクションに描かれるような都合の良い復讐が現実に存在すると考えるのは、フィクションと現実の区別がついてない者がすることだ。

ミハエルはそれこそ数多くの実例をその目で見てきているし、アオ達も、エンディミオンという実例を知ってしまった以上、そこから学ばないわけにはいかない。

それを知りながら、学ぶ機会がありながら、それでも何も学ばないというのは、<怠惰>というものだろう。

アオはさらに言う。

「よく、『やられたらやり返すのは当たり前』とか言ってるのがいるじゃん? でもさ、自分がどこかで誰かを貶したことがきっかけでやられたんなら、それは自分が先にやったってことじゃん? 

しかも、『叩かれる原因を作った方が悪い』とかいうのも、相手に反撃させないための詭弁だよね。『やられたらやり返すのは当たり前』とか言いながら、その実、自分が一方的に攻撃したいだけで、反撃されるのは嫌って言ってるのと同じなんだよ。

だから、悠里ユーリ安和アンナ椿つばきも、わざと他人を傷付けるようなことはしないでほしい。

特にうちの場合は、私がアンチからメッチャクチャに叩かれてるから、『やり返す理由』があるからね。それが丁度いい攻撃の言い訳にできちゃうからね。

だけど、私はそれを理由に他人を傷付けていいとは思わない。私に罵詈雑言ぶつけてくる人達は、悠里や安和や椿みたいにしてもらえなかった人達だから。親から自分のしてることがいかにマナーに反してるか、礼儀礼節ってものを蔑ろにしてるか、教えてもらえなかった人達だからね。そういう人達と同じことをする必要はまったくないんだよ。

今までもそうしてきたけど、誰かを傷付けたくなるようなことがあったら、まず、私かミハエルに相談してほしい。一緒に問題を解決しよう。

あなた達をこの世界に送り出したのは私とミハエルなんだよ。この世界に対する不平不満は私達が受け止める。

その覚悟があるから、あなた達に来てもらったんだからね」

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