上 下
311 / 571
第二幕

自らがファンタジーを描く側の人間であるがゆえに

しおりを挟む
『もし、ミハエルや悠里ユーリ安和アンナ椿つばきが誰かに殺されでもすれば、自分は間違いなく復讐を望むだろうということも分かっている。許されないことを分かっていても実行しようとしてしまうであろうことも』

この通り、アオは、自分の大切な人が理不尽に殺されでもしたら間違いなく復讐を望むことが分かっているからこそ、

『復讐は正当化されるべきじゃない』

と考える。

『自分の納得のため復讐するんだ』

などという自分本位な理由でなど、それこそ認められない。

<絶対にミスしない復讐>

などというのはファンタジーでしかないということを、自らがファンタジーを描く側の人間であるがゆえに知っているからこそ認められない。

<復讐劇>を自ら描くからこそ、

『こんな上手くいくはずがない!!』

と分かってしまう。

『論理的に理性的に<仇>だけを殺し、それ以外の誰も巻き込んではいけない』

なんてことを実行できる<復讐者>など現実には存在しないことが。

たとえ存在したとしても、あくまで例外的なものに過ぎないことが。そのごくごく例外的な事例のために復讐を認めて、それで多数の新たな犠牲者を出すことが許されるべきだと、本気で考えるのか?

何度も何度も何度も何度も、両親や兄への復讐をシミュレートし、実際に文章に書き起こしたこともあるがゆえに。

<無関係な人間を絶対に巻き込まない復讐>がいかに非現実的であるか、思い知ったがゆえに。

自身が復讐を望む側だからこそ、その実行を詳細にシミュレーションした経験があるからこそ、復讐を認めない。

そして、復讐を肯定しようとする者の多くは、自分が復讐を実行することで新たな被害者が出るかもしれないことを理解するからこそ涙を呑んで思いとどまったとしたら、それを攻撃するのだ。

『薄情者!!』

と。

『被害者の無念を考えろ!!』

と。その被害者がどういう人であったか知りもしないクセに。

そして、実際の経緯など知りもしないクセに。

これが<偽善>でないなら何なのだ?

被害者が、遺族が、どんな想いで復讐を思いとどまったのか想像もしないような者が、

『被害者や遺族の気持ちを考えろ!!』

と口にするなど、もはや、

<吐き気をもよおす邪悪>

でしかないのではないか?

自らが復讐を望み、そして実際の<復讐者>を知れば知るほど、復讐を容認することの危険性を思い知ってしまう。

加害者への恨みが強ければ強いほど、冷静ではいられないのだ。<お利口ちゃん>ではいられないのだ。

<筋を通すクールな復讐者>

など、フィクションの中にしか存在しない。その者がどんなことを言っていても、それは現実には当てはまらないことをわきまえなければ、現実とフィクションの区別がついているなど、言えるはずもない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

【完結】白蛇神様は甘いご褒美をご所望です

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
キャラ文芸
廃業寸前だった小晴の飴細工店を救ったのは、突然現れた神様だった。 「ずっと傍にいたい。番になってほしい」 そう言い出したのは土地神である白蛇神、紫苑。 人外から狙われやすい小晴は、紫苑との一方的な婚約関係を結ばれてしまう。 紫苑は人間社会に疎いながらも、小晴の抱えていた問題である廃業寸前の店を救い、人間関係などのもめ事なども、小晴を支え、寄り添っていく。 小晴からのご褒美である飴細工や、触れ合いに無邪気に喜ぶ。 異種族による捉え方の違いもありすれ違い、人外関係のトラブルに巻き込まれてしまうのだが……。 白蛇神(土地神で有り、白銀財閥の御曹司の地位を持つ) 紫苑 × 廃業寸前!五代目飴細工店覡の店長(天才飴細工職人) 柳沢小晴 「私にも怖いものが、失いたくないと思うものができた」 「小晴。早く私と同じ所まで落ちてきてくれるといいのだけれど」 溺愛×シンデレラストーリー  #小説なろう、ベリーズカフェにも投稿していますが、そちらはリメイク前のです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

理容師・田中の事件記録【シリーズ】

S.H.L
キャラ文芸
床屋の店主である田中が逮捕される物語

古からの侵略者

久保 倫
キャラ文芸
 永倉 有希は漫画家志望の18歳。高校卒業後、反対する両親とケンカしながら漫画を描く日々だった。  そんな状況を見かねた福岡市在住で漫画家の叔母に招きに応じて福岡に来るも、貝塚駅でひったくりにあってしまう。  バッグを奪って逃げるひったくり犯を蹴り倒し、バッグを奪い返してくれたのは、イケメンの空手家、壬生 朗だった。  イケメンとの出会いに、ときめく永倉だが、ここから、思いもよらぬ戦いに巻き込まれることを知る由もなかった。

〈銀龍の愛し子〉は盲目王子を王座へ導く

山河 枝
キャラ文芸
【簡単あらすじ】周りから忌み嫌われる下女が、不遇な王子に力を与え、彼を王にする。 ★シリアス8:コミカル2 【詳細あらすじ】  50人もの侍女をクビにしてきた第三王子、雪晴。  次の侍女に任じられたのは、異能を隠して王城で働く洗濯女、水奈だった。  鱗があるために疎まれている水奈だが、盲目の雪晴のそばでは安心して過ごせるように。  みじめな生活を送る雪晴も、献身的な水奈に好意を抱く。  惹かれ合う日々の中、実は〈銀龍の愛し子〉である水奈が、雪晴の力を覚醒させていく。「王家の恥」と見下される雪晴を、王座へと導いていく。

処理中です...