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第二幕

安和の日常 その3

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「ホントに、<批判>と<誹謗中傷>っていうか、<暴言>とか<悪態>の区別がついてないのが多くて呆れる。

親に何教わってきたんだよ。学校で何習ってきたんだよ。

<批判>っていうのはあくまでいい方向に行くように願って建設的な意見を述べることじゃないのかよ?

<イキリ○○太郎>とかってのは、批判じゃねーだろ。それのどこが<建設的な意見>だよ? 百パーセントバカにすることが目的だろ! 相手をバカにすることが目的になってる時点で<批判>じゃねーじゃん!

でさ、それを指摘したら必死になって詭弁並べて自分を正当化しようとするんだぜ? ダサすぎ…!」

ある日、安和アンナが、スマホを見ながら怒ってた。

「なんだ? またアンチに何か言われたのか?」

椿つばきがまだ学校から帰っていなかったのと、アオは就寝中、ミハエルは所用で出掛けていて自分しか残っていなかったことで、悠里ユーリが覗き込んできた。

けれど、それは、安和が運営しているレビューサイトではなかった。安和のレビューサイトで好意的なコメントをよく残してくれる閲覧者の一人のSNSアカウントだった、

その閲覧者はアニメも好きで、けれど彼女の好きなアニメの主人公が<イキリ○○太郎>と蔑称を付けられて貶されていることに憤っていたのだ。それに安和も共感して声が出てしまったらしい。

しかも、

『イキってる奴を<イキリ>って呼んで何が悪い!? 批判的な意見を封じ込めようとか、言論の自由って知ってるか!?』

的なコメントで噛み付いてきているのもいたのだ。

これには悠里も、

「ああ、なるほど……」

と思ってしまった。

「確かに安和の言うことがもっともだと僕も思うよ。蔑称を使うのは批判じゃない。相手を罵倒するためのものだ。相手をバカにするのが目的になってる。建設的な意見を述べたいのなら蔑称を使うとか論外だと思うよ」

悠里もまだ十四歳ながら、普段からミハエルやアオが口にしていることがすっかり身に着いて、年齢にはそぐわないくらいに理路整然とした物言いをする。しかも外見上は三歳やせいぜい四歳くらいにしか見えない彼が口にするから違和感はすさまじいが。

けれどこれは、安和が感情的になっているからというのもあるだろう。彼女が感情的になっていることで悠里は逆に冷めているのだ。なので、もし、悠里が感情的になっていたら今度は安和が冷静になだめていただろう。

こうして、蒼井家の者達は、お互いに感情を暴走させないように気遣い合っている。決して、どこかの誰かを死ぬまで追い詰めようとしてるのを放っておかれることはない。

自分の家族が誰かを死に追いやろうとしているなんて、見過ごせるはずがないのだった。

けれど同時に、

「でも、『ダサすぎ』っていうのは<批判>じゃなくて<罵倒>かな」

「む…ぐ……!」

ちゃんとマズい部分は『マズい』と指摘してくれるけれど。

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