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ミハエルの日常 その13

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世間一般から見ればどれほど<普通>とは思えなくても、ミハエル達は幸せだった。

ミハエル達の幸せを嘲笑うものがいるとすればそれは、自身が不幸であることから妬んでいるだけだろう。

そして、他人の幸せを妬んでいるうちは、幸せになれることはない。他人を見下して『悦に入る』ことはできたとしても、他人の幸せを妬んで苛々している時点で<幸福度>は大きく損なわれているだろうから。

それでもなお、

『他人を見下すことそのものが幸せ』

だと思うのなら、好きにすればいいのかもしれない。

その行いを他人がどう感じるか覚悟の上であるというのなら。



アオや子供達に労わってもらえて安らげたミハエルは、しばらく休憩した後、再び、

「いってきます」

と家を出た。

今度は、恵莉花えりか秋生あきおを見守るためだ。

さすがに高校生が対象だけあって、小学生達を見守る時ほどは念入りではないものの、小学生の姿もちらほら見えるし、中学生はさすがに下校時間が近いので姿も多い。

加えて不審者の目撃情報もあるので、油断はできない。

実際、刃物を手に子供に近付こうとした者の足を払って転ばせたことも二度ばかりある。

一度は若い男性だったが、もう一度は中年の女性だった。

しかも、男性の方はそれ以降、見掛けることはなかったものの、女性の方は僅か数日後に再び刃物をもって現れたため、ミハエルは警察に通報し、それを受けて駆けつけた警官が女性に職務質問。

しかし職務質問を拒み激昂、さらには手にしていたぺティナイフで警官に切りかかろうとしたために銃刀法違反と職務執行妨害の現行犯で逮捕され、精神疾患の可能性が高いとして不起訴処分とはなったものの同時に再犯の可能性が非常に高いとみられたことで措置入院の判断が下され、数ヶ月が経った現在も入院中、退院の見通しは立っていないという。

その女性は初犯であったために、もし起訴に至ったとしても執行猶予の判決が出る可能性が高く、むしろ措置入院の判断が下ったことで監視下に置かれる結果となった。

一方の男性の方も、自身の行いを省みて態度を改めるならそれでよし。けれど万が一、同じことをしようとすれば女性の時と同じく警察に通報する準備は整っている。

なにしろ、転ばせた後で慌てて逃げる男性の後をつけ、現住所も確認済みだから。

アパートに一人住まいらしいその男性は、あれ以降、部屋に閉じこもったまま、近所のコンビニに買い物に出る姿が何度か確認された以外は、一切、外出もしていないようだ。

ミハエルは、それについても悲しんだ。悠里ユーリ安和アンナ椿つばきあきら恵莉花えりか秋生あきおが相手なら、こんなことになる前に対処するのに……

それ以前に、こんなことにはならせないのに……

どういう経緯があるのだとしても、赤の他人に憤りをぶつける以前に、自分に向けさせるから。

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