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ミハエルの日常 その8

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下校途中にふざけていて危うく自動車に撥ねられそうになった子供は、それでも、

「危ねえだろ! このガキ!!」

すんでのところで躱すことができた(と本人は思っているが、実際にはミハエルが子供の体を掴んだことで当らなかっただけである)ドライバーに怒鳴られてさえ、

「ヤッベーッ!!」

と声を上げながら逃げていっただけだった。一緒にいた子供も、

「ギャハハ!」

などと笑いながら逃げ去っていく。

まるで懲りていないようだ。

「……」

そんな子供達を、気配を消したミハエルは、悲しげな表情で見送る。

もしこれで本当に懲りていないのだったら、あの子供はいずれ大きな事故に遭って命を落としたりするかもしれない。

自分の手の届く範囲であれば何度でも助けようとは思うものの、いかにミハエルといえどその手は無限に届くわけじゃない。

結局、あの子供達自身が気付いて自らの振る舞いを改めていくしかないのだ。

本当はすぐ身近な大人がちゃんと理解させるべきだったのだが、あの様子を見ただけでも、彼らの身近な大人達にはそれをできる能力がないことが分かる。

もしかしたら口では、

『危ないことはするな』

『道路ではふざけるな』

と言ったり、危険なことをすれば叩いたりして教えようとしていたのかもしれない。

しかし、こうして実際に効果を発揮していないのだから、自分達のやり方がこの子供達には適していないことを理解し、改めようという発想が持てていないのだというのは事実のはずだ。

仕事でも結果が出なければその原因を突き止め対処しようとするのではないのか?

問題があれば多方面からそれを検証し、客観視し、複数の対処法を検討しその上で適切なそれを探し出すのではないのか?

どうして<子育て>になると途端にその発想が持てなくなるのか?

それは結局、相手を、子供を、侮っているからではないのか? 軽んじているのではないのか? 

だから仕事ではやることを<子育て>ではやらなくなるのでは?

自分を侮り軽んじてる相手の言うことを聞きたいと思うか?

子供は一時期、親を質問攻めにすることがある。きっと、これよりもっとたくさん、何度も、しつこく。

相手を侮り、軽んじていなければ、そんな一時のことには付き合えると思うのだが?

普通はその調子で、一生、質問攻めにするわけではないのだから。

真摯に向き合ってくれている実感があれば安堵もするだろうし、信用してもいい気はするのではないか? 

そして何より、自分にもしものことがあれば悲しむと思ってくれれば、悲しませたくない相手だと思ってくれれば、命を粗末にするような悪ふざけも、しなくなっていくのではないか?

ミハエルの子供達は、自分にもしものことがあれば両親が悲しむことを知ってくれているから、悲しませたくないと思ってくれているから、命を粗末にしない。

あの子供達のような悪ふざけをしつこく繰り返したりはしないのだった。

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