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秋生の日常 その8
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人間はとかく自分の思う<普通>と違っているものは蔑み見下し排除しようとする。
『<発達障害>がある』
などと言えばそれこそ、
『そんな遺伝子は排除してしまえ』
的なことすら平気で言う。
しかし、ダンピールを父に持つ秋生にとっては、人間の言う発達障害など、それこそ、
『微々たる違い』
でしかなかった。
なにしろ生物学上もれっきとした人間であり、戸籍も貰え、<人権>も持っているのだ。
生物学上での人間ではなく、戸籍もなく、<人権>も持たないエンディミオンに比べればそんなことなんだと言うのか。
それよりも、日がな一日、自分の憂さ晴らしのために他人を罵り続けているような連中の方がよっぽど<異質>で<不快>だと思う。
市川美織に軽度の発達障害があることは、二~三度話をしただけで察していた。
けれど、相手の特徴を把握すれば対処など大して難しくもない。
『そういう人』だと思って接すればいいだけだ。少なくとも悪意を持って何かしてくるわけでもない。
元より、医学上でもはっきりと分かっている<事情>を抱えた人間も気遣えないような世の中が、ロクに目に見えない個々人の事情に気遣ってくれるはずもないだろう。
『自分は気遣ってもらえないのに、障碍があるとかいう理由で気遣ってもらえるとか、逆差別だ!!』
などと、他人が気遣ってもらえることを妬んで攻撃的になるような人間など、むしろ社会にとってはリスクであり危険要素でしかない。自分が気遣ってもらえないのはそういう攻撃性を周囲に見抜かれているからだとなぜ気付かないのかと秋生は思う。
自分で自分の首を絞めているだけではないか、と。
自分で自分が生き難い世の中にしているだけではないか、と。
だから彼は、美織のことも特別扱いはしない。彼女の抱える事情については配慮するものの、それだけだ。
美織は、秋生のそういうところを無意識のうちに察していた。だから麗美阿と美登菜のことも任せられると感じていた。
直感的に。
<曖昧な指示>は理解できなくても、彼女にはどうやら、
<人を見る目>
はあるらしい。
相手の器が見えてしまうのだろう。
些細なことでキレるとか、少し自分の思い通りにいかなかっただけで苛立ち他人を罵倒するようなタイプは彼女にとっては<天敵>だったから。
麗美阿と美登菜が好きなのも、彼女達が彼女にとっては数少ない<味方>と言える人間だったから。
麗美阿も美登菜も、彼女にとってはよく分からない理由で怒られる美織に優しくしてくれた。話しかけてくれた。
もっとも、それは、麗美阿と美登菜にとってもそうだった。
クラスから浮いた存在と見られていた麗美阿や美登菜に対しても美織が普通に接してくれていたから、二人にとっても美織の存在が心地好かっただけだったのである。
『<発達障害>がある』
などと言えばそれこそ、
『そんな遺伝子は排除してしまえ』
的なことすら平気で言う。
しかし、ダンピールを父に持つ秋生にとっては、人間の言う発達障害など、それこそ、
『微々たる違い』
でしかなかった。
なにしろ生物学上もれっきとした人間であり、戸籍も貰え、<人権>も持っているのだ。
生物学上での人間ではなく、戸籍もなく、<人権>も持たないエンディミオンに比べればそんなことなんだと言うのか。
それよりも、日がな一日、自分の憂さ晴らしのために他人を罵り続けているような連中の方がよっぽど<異質>で<不快>だと思う。
市川美織に軽度の発達障害があることは、二~三度話をしただけで察していた。
けれど、相手の特徴を把握すれば対処など大して難しくもない。
『そういう人』だと思って接すればいいだけだ。少なくとも悪意を持って何かしてくるわけでもない。
元より、医学上でもはっきりと分かっている<事情>を抱えた人間も気遣えないような世の中が、ロクに目に見えない個々人の事情に気遣ってくれるはずもないだろう。
『自分は気遣ってもらえないのに、障碍があるとかいう理由で気遣ってもらえるとか、逆差別だ!!』
などと、他人が気遣ってもらえることを妬んで攻撃的になるような人間など、むしろ社会にとってはリスクであり危険要素でしかない。自分が気遣ってもらえないのはそういう攻撃性を周囲に見抜かれているからだとなぜ気付かないのかと秋生は思う。
自分で自分の首を絞めているだけではないか、と。
自分で自分が生き難い世の中にしているだけではないか、と。
だから彼は、美織のことも特別扱いはしない。彼女の抱える事情については配慮するものの、それだけだ。
美織は、秋生のそういうところを無意識のうちに察していた。だから麗美阿と美登菜のことも任せられると感じていた。
直感的に。
<曖昧な指示>は理解できなくても、彼女にはどうやら、
<人を見る目>
はあるらしい。
相手の器が見えてしまうのだろう。
些細なことでキレるとか、少し自分の思い通りにいかなかっただけで苛立ち他人を罵倒するようなタイプは彼女にとっては<天敵>だったから。
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麗美阿も美登菜も、彼女にとってはよく分からない理由で怒られる美織に優しくしてくれた。話しかけてくれた。
もっとも、それは、麗美阿と美登菜にとってもそうだった。
クラスから浮いた存在と見られていた麗美阿や美登菜に対しても美織が普通に接してくれていたから、二人にとっても美織の存在が心地好かっただけだったのである。
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