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秋生の日常 その5

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ここの図書室では、蔵書の管理が簡潔かつ確実に行えるようにと、システム化されていた。

管理用のパソコンにはラベルプリンタが接続され、本のタイトルと著者名を入力すれば、適した本棚の位置が自動で割り当てられ、打ち出されたラベルにはバーコードが刻まれ、本の貸し出しや返却はバーコードリーダーで読み込むだけで手続きが済むというものである。

これは、この学校の卒業生であるシステムエンジニアが、母校に対する<寄付>として私費で構築したシステムだった。

しかも、学校内だけでなく、ネットワークを通じて市が管理する公立の図書館ともデータを共有し、本を探している利用者に情報を提供。必要とあれば閲覧も可能になっている。

より多くの人に本に触れてもらいたいという願いから作られたものだった。

もっとも、図書委員の麗美阿れみあはともかく、秋生あきおもその辺りの詳しい背景は知らずに便利に使っているだけだが。

ましてや美登菜みとな美織みおりは本自体にはあまり関心がなく、ただ秋生と一緒にいられるのが嬉しいというだけなのも事実。

麗美阿れみあは、その辺りのことも内心では複雑な気持ちも抱きつつ、

『たぶん、私一人だったら月城つきしろくんにまともに話し掛けることもできなかったから……』

と、引っ込み思案でコミュニケーション能力は決して高くない自分が秋生とこうやって親しくできる絶好の機会になっていることも自覚していた。

だから、戸惑いつつ感謝もしている。



一方、この<ハーレムごっこ>を提案した汐見しおみ美登菜みとなもまた、実はこうやって<ごっこ>という形を取らないと上手くできないことを自覚している一人だった。

体が小さくてちょこまかと動いて、誰にでも気楽に話しかけられて、まるで、

<人懐っこいネコ>

といった印象のある彼女だけれど、本当はこれも、彼女なりの処世術だった。他人にとって『可愛らしい』自分を演出することで、

<他人にとって価値のある自分>

であろうとしていた。

彼女の両親は、彼女に対して、

「カワイイ♡ カワイイね♡」

としか言わず、彼女が、

「カワイイって言われるの、あんまり好きじゃない…!」

と本音をこぼすと、

「何言ってんだ美登菜みとな! お前はカワイイよ!」

「そうよ、美登菜みとなちゃん。私達はカワイイあなたが自慢なの」

などと可愛くあることを押し付けてくるばかりで彼女の言葉には耳を傾けてくれなかった。

けれど秋生は、つい意地悪したくなってしまったり、不機嫌そうな顔をしていても、

「疲れた時はちゃんと『疲れた』って言った方がいいよ」

と言ってくれた。

しかも、熱があって辛くて学校を休ませて欲しいと思った時も両親は、

「ちょっとぐらいの熱とか平気平気! 美登菜みとなの元気パワーで吹き飛ばせ!」

と言って休ませてくれなかったのに対し、秋生は、辛そうな彼女を一目見るなり

「保健室に行った方がいい!」

そう言ってくれて、養護教諭に付き添われて近所の医院で検査を受けると、インフルエンザの陽性が確認されたということもあったのだった。

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