ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

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自分の好きなことにこそ

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『なんで自分の好きなことにこそ時間を費やそうとしないのかねぇ』

安和アンナのその言葉が肝になるのだと思われる。

何しろ人間というのは、『自分にとってどうでもいいもの』『興味のないもの』についてはどこまでも怠惰になれる生き物だ。

それが、実に勤勉に、

『自分の好みに合わない作品に対して粘着し、決して長いとは言えない人間の生涯の内の少なくない時間を費やす』

というのは、一見、大変に非合理的な行為のようにも他人の目には映る。

しかし、それは本当にそうなのだろうか?

本人にとっても非合理的な行為なのだろうか?

そんな非合理的な行為に人間はそこまで勤勉になれるものだろうか?

おそらく、答えは『否』だと思われる。

どれほど他人からは無益な行為に見えても、本人にとってそれは、

『そうせずにいられない行動』

なのだろう。

それは<自己実現>なのかもしれないし、<自己満足>なのかもしれないし、<使命感>なのかもしれないし、そもそも言葉では表現できない<何か>なのかもしれない。

だがいずれにしても、やっている本人にとっては必要なことなのは間違いない。そうでなければ、何十分も何時間も何日も何年も粘着することなど、

『人間という生き物の性質として』

実行できないはずなのだ。

では何故、そんなにもそれが<必要>なのか?

こればかりはそれぞれ本人にしか分からないことだろうが、アオやさくらは、自ら子供を育ててみて、<人間>を育ててみて、感じたことはある。

『自分の価値を誰かに認めてもらいたいというのは、人間という生き物がその根幹として持っている欲求なのかもしれない』

と。

誰かが提供してくれる<自分好みの作品>をただ漫然と享受しそれに溺れるだけではなく、

『自分の価値観や好みに合わない作品を自身のそれに合うように作り変えるように働きかける』

ことそのものに何らかの<悦び>を見出しているのかもしれないと感じていた。

つまり、<アンチ>と呼ばれる人間にとっては、自分がそれに干渉することによって何らかの変化を与えられることが喜びなのだ。と。

『自分の意見が影響を与えた』

ことが無上の悦びになるのだろうと推測している。

彼らは彼らなりに<クリエイティブな行為>を行おうとしているのかもしれない。

『自分に作品そのものを作り出す能力がないことを自覚している』

からこそ。

自分にその能力があるのならば、他人の作品を貶している時間も惜しんで<自分好みの作品>を自ら生み出せばいい。

<自分が見たいもの>

を自分で生み出すのだ。

ある種、

<究極の自給自足>

と言えるかもしれない。

アオはそれを行っている作家であり、さくらはその手伝いをしている編集者である。

だから自分達だけで、ある意味、完結しているとも言える。

ゆえに他人の作品を貶す時間さえ惜しいし、そういう母親の姿を見て育ってきた子供達にとっては、

『他人を貶めようとする行為に時間を割く』

ことは何の価値も見出せない行為なのであろう。

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