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<完璧王子>と<エリートニート>

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『前提が逆なんだよ。『家族と一緒に暮らしてるから自立できてない、自活できてない』じゃないんだ。『他人が思ってるあれこれに振り回されて自分を貫けてない』状態は、たとえ一人暮らししてたって自立なんてできてないよ。体裁を気にして形だけ一人暮らししてるように見せかけてるのなんて、そんなの自立じゃないと私は思う』

アオのその言葉に、恵莉花えりかは思い当たることがあった。

「あ~、それで思い出したけど、私が一年だった時の三年の先輩でさ、今は大学中退してニートしてるのがいるんだよ。

で、その先輩、今、ネットで、

『エリートニートの人生バラ色~♡ 自分は働かず親の金で食うメシ美味うめ~♡』

とか発信しまくってて、絶賛炎上中なんだ。

んでもって、これがその人の発信してる動画」

そう言いながら動画を表示させたスマホをテーブルに置く。

するとそこには、いわゆる<汚部屋>で、美少女キャラのお面を被って、

「は~い、エリートニートのシュバちゃんで~す♡ 今日も必死で小銭のためにあくせくしてる社畜のみなさ~ん、息してますか~?」

などと、完全に他人を嘲り倒そうという意図が丸出しの口上を述べている若い男が映っていた。

「こいつさ、<シュバ>って名乗って、あ、<シュバ>ってのは、ドイツ語で<豚>って意味の<シュバイン>から取ってるらしいんだけど、自分の家が裕福でなんの苦労もなくニート生活満喫してる様子を配信して、一日で万単位の罵倒を集めてるってんで、最近、話題になってんの」

恵莉花のその説明に、

「あ! それ見た! <イキリヒキニート>ってんで叩かれまくってる奴だよね。恵莉花の知ってる奴だったんだ?」

安和アンナが反応する。

それに対して苦笑いを向けながらも、恵莉花は続けた。

「知ってるってか、悪い意味で有名人だったんだよ。クラスで孤立してるボッチで勉強ばっかりしてて、でも在学中一度も学年一位を取れなくてさ。

しかも一位はいっつも、知的イケメン陽キャメガネっていう、<超人サイボーグ>とか<完璧王子>とか呼ばれてた人でね、その人と比べられてっていう形で有名人だったんだ。

<完璧王子>の方は、『部活はテニス部』『塾には行ってない』に始まって学校では授業は真面目に聞いてるけどそれ以外ではあんまり勉強してるわけじゃなさそうなのにムチャクチャ勉強できて、有名難関国立大学にも上位の成績で合格したって。

だけど、<シュバ>の方は、休憩時間中もずっと勉強して学校が終わったらすぐに有名進学塾に直行っていう感じで。

なのに、そこまでやっても<シュバ>は一度も<完璧王子>に勝てなくて…

大学も<完璧王子>と同じとこ受けたんだけど、補欠でギリ合格って話だったなあ……」

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