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親の特権

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とにかく冠井迅かむらいじんの件については、すでに蒼井家には関係のないこととして成り行きを見守るだけになってしまった。

ミハエルとしてはそれこそ、

「僕にはどうにもできないからね」

と思っている。

人間がいくら噛み付いてきても歯牙にもかけない。その気になれば眷属にして操ってしまえばどうにでもできるのだから、そもそも人間と争うこと自体が愚かしい行為だった。

自分が絶対に負けることがない相手を前にふんぞり返って偉そうにするなど、あまりにも小物過ぎる。

もしかしたら負けるかもしれない相手に勝てて気分が良くなってしまうのはまだ分かるけれど。

だから、冠井迅かむらいじんに対してもその両親に対しても何かをするつもりはまったくなかった。

それに、ミハエルが何かしなくても、引越しして無駄な金を使い、学校を相手に難癖を付けるモンスターペアレンツという風評をもらい、白い目を向けられ、毛嫌いされるようになったのだから、本人達にとっては大変なデメリットである。

もう、穏やかな暮らしさえ手に入れるのは難しいだろう。

もっとも、本人はそれを<損>だとは思わないのかもしれないが。

思わないからそんなことができてしまうのかもしれないが。

ただ、そんな両親の下に生まれついてしまった冠井迅かむらいじんが憐れだとは思う。

思うけれど、だからと言って手出しもできない。冠井迅かむらいじんの両親がそれを認めるはずもない。

『僕は無力だ……』

こんな時、ミハエルはついそう思ってしまう。

目に付いた子供達全員を救うことができればどんなにいいだろう。

けれど、それをしようと思うのは傲慢な思い上がりだということも分かる。

子供に対して責任を持てるのは、本来、その子をこの世に送り出した当人だけだ。

自分がこの世に送り出した子供に対して責任を負うのは親の<義務>であると同時に、

<自分がこの世に送り出した子供に対して責任を持つことができる権利>

でもあるというのが、自分が子供を持ってみてすごく実感できた。

悠里ユーリに、安和アンナに、椿つばきに対して責任を負うことができるというのがたまらなく嬉しい。

子供を持つというのはそういうことなのだと心底思う。

『子供に人生を奪われるのは嫌だ』?

『子供のために自分の好きなことを諦めるのは嫌だ』?

そうじゃない。

自分の選択に対して責任を持つことができるというのは、自分で自分のことが決められる者にとっては無上の喜びなのではないのか?

子供をこの世に送り出す選択をしたのは自分ではないか。その選択に対して責任を持てるというのは、選択を行った者だけの特権のはずである。

だからこそ、虐待などの法に触れるような行為でもしているのでなければ、他人の家庭に口出しはできないのではないだろうか。

<自分の子供に対して全責任を負うことができるという親の特権>

を侵害する行いであるがゆえに。

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