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厳正に対処する

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『もう二度とこのようなことはしない。させない』

それさえちゃんと誓ってくれれば早々に和解してもいいと考えていた学校側の意向の一切を無視し、冠井迅かむらいじんの父親は徹底的に争うことにしたようだ。

なお、今回の件について、アオやミハエルは、椿つばきの怪我が大きなものではなかったことから、学校と同じく、

『もう二度とこのようなことはしない。させない』

と言ってもらえれば話を大きくするつもりはなかった。

けれど、学校側としては、

『預かっている児童の安全と、教育を受ける機会を確実に守る』

という基本的な在り方を脅かすような行いに対しては厳正に対処する必要があり、それを蔑ろにするというのであれば引き下がることはできなかった。

ここで一つ、原点に立ち返って考えてみよう。

<学校>は、勉強をする場所である。

決して、他の生徒をイジメたりしてストレスを発散するための場所ではないし、教師は心理的な問題をケアする心療内科医ではない。

他の生徒に怪我を負わせて、その分、養育を受ける機会を奪うことが許されて当然だというのか?

他の生徒をイジメて学校に来ることに苦痛を覚えさせるのは、

<教育を受ける権利を侵害する行為>

であるとなぜ分からない?

この当たり前のことを忘れている者が多すぎはしないか? 

子供の精神的なケアを行うのは、本来、各家庭が独自にするべきことではないのか?

<躾>も<ケア>も学校に丸無げするのが<親>のすべきことなのか?

自分の子供が他の生徒に暴行を加え、他人の権利を侵害しておきながら自分の権利ばかりを守ろうとするのが大人のすることなのか?

椿が通う学校は、そういう点について、冠井迅かむらいじんの両親に対して正しているだけである。

その機会がたまたま椿が巻き込まれた一件だったというだけでしかない。

あくまでこれは、生徒が安全に教育を受けられる場所を守ろうとする学校側と、それを理解しようとしない冠井迅かむらいじんの両親の問題なのだ。

なので、アオとミハエルはただ成り行きを見守ることにした。

「椿は大丈夫?」

「うん。まだちょっと痛いけど大丈夫。でも、あとが残ったら嫌だなあ……」

「そうだね。でも、もしそうなっても大丈夫だよ。それを気にしない人は必ずいるから」

女の子としては、やはり、自分の体に痣や傷が残ったりするのは気になるところだろう。それについて、アオもミハエルもきちんと向き合って椿の精神的なケアを行うようにしていた。

家族それぞれで、

『自分は悪くない。悪いのは他の奴らだ』

と責任を擦り付け合って、互いの精神的なケアなどする気もない冠井かむらい家とは違って。

だから椿も、多少は複雑な想いもありつつも、これからも学校には行こうと思えたのだった。

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