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理想の世界

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なるほど確かに、

『やったもん勝ち』

『犯罪上等』

『ルール無視上等』

『ルールは破るためにある』

と考える人間にとっては、些細な喧嘩や悪ふざけやパワハラやセクハラやモラハラや信号無視や速度違反や駐車違反や一時停止義務違反や万引きや列車往来危険行為などでいちいち罪を問われるのは『息苦しい』だろうし、それが当たり前の世界は『生き難い』のかもしれない。

けれど、それによって迷惑を掛けられる側や、危険に曝される可能性のある側にとっては、逆に、そういう行為が野放しにされるような世界こそ『生き難い』のではないのか?

他人に暴力を振るっても、軽微とはいえ怪我をさせても、財産に損害を与えても、それがきちんとした手続きも踏まずに見逃されてしまうような社会が本当に誰にとっても生き易い社会なのか?

一部の好き勝手に振舞いたい人間にとってだけ都合のいい社会でしかないのではないのか?



救急車により病院へと救急搬送された椿は、胸部への強い衝撃を受けたということでレントゲンをはじめとした様々な検査を受けた。

骨折や、肺などが損傷していないかを調べるためだ。

幸い、骨にも臓器にも異常はなく、

<全治二週間の打撲>

の診断を受けた。

けれどこれで、ただの打撲で済んだとはいえ実際に<怪我>をしたことが確定したことになる。

事実、この時に生じた<痣>は、完全に消えるまで一ヶ月近く掛かったという。

また、今回は幸運にもそこまでは至らなかったものの、胸部に衝撃を受けたことで<心臓震盪>が発生し死亡に至ったという事例もある。

こういうことを言うと、

『危険だからって何でもかんでも大袈裟にしていたら何もできなくなる!』

と強弁する者が必ず出てくるが、これは、死刑廃止を訴える者に対して、

『そんな綺麗事を言ってても自分の家族が殺されたら死刑にしろとか言い出すんだろ?』

的なことが言われるのと同じく、

『自分の愛する者がそういう形で命を落としても同じことが言えるのか?』

という話になるのではないだろうか。

自分の家族が、子供が、他人の<些細な悪ふざけ>が原因で命を落としても、

『仕方ない。運がなかっただけ』

『その程度で死ぬような弱いのは淘汰されるのが当たり前』

などと言って簡単に割り切れるのが当たり前の世界が理想なのか?

『悪意でもって他人を殺せば必ず死刑になる一方で、悪意なくただの悪ふざけや過失で他人を死なせれば無罪放免』

そんな世界を望んでいるのか?

それだと、<交通死亡事故>などは、一切、罪に問えなくならないか? 少なくとも、事故を起こした瞬間は悪意などなかっただろうから。

しかし今回の冠井迅かむらいじんは、明らかに意図的に机を強く蹴飛ばしている。椿つばきに向けて。

これが<悪意>でないのなら、何が悪意になるというのだろうか。

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