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椿の日常 その8

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『自分から他人を傷付けようとしなければトラブルには巻き込まれない』

必ずしもそうとは限らないということも、これで分かる。おとなしくしててもトラブルの方からやってくることもある。

だからついつい、自分が遠慮することを『損だ!』と感じてしまうこともあるんだろう。

だけどこれはあくまで確率の問題。

『自分の方からトラブルを招くようなことをしなければそれだけ巻き込まれる確率が下がる』

というだけの話でしかない。

となれば、後は本人の納得の問題になる。

たとえ自分でトラブルを招くことになろうとも、その場の感情を優先するか、感情を抑えてでも余計なトラブルを自分で招くことを避けるか。

そのどちらを選ぶかはあくまで自分。

忘れてはいけないのは、自分がそれを選択したのなら、自分の選択について他人の所為にするのはおかしいということかもしれない。

そう、

『どんな親の下に生まれるか?』

かは決して本人の選択じゃない。子供を作るかどうかはどこまで行っても<親の側の選択>だ。だからその選択については親の側が負うべき責任だろう。

でも、どんな親の下に生まれても、自分自身で選択することはある。選択できることはある。

となれば、自分で行った選択についてはやはり本人が負うべきなのだと思われる。

『他人から絡まれたからといってそれに対して攻撃的に反撃するかどうかを選択する』

のも、本人が責任を負うべきことではないだろうか。

『先に絡んできたのは向こうだ! だから自分には反撃する権利がある!!』

とか言うのは、間違いなく、

『他人の所為にしている』

はずだ。『攻撃的に反撃する』か、それとも『冷静に理性的に倫理的に順序立てて反論する』かどうかを選択したのは自分だから。

だとしたら、そういうことを言って『攻撃的に反撃』してる人間が、

『親の所為にするな。社会の所為にするな』

と発言するのは矛盾しているのではないだろうか。

自分が攻撃的に反撃することを選択したというのに。

椿はもう、感覚的にそれについて理解していた。だから厄介事に巻き込まれたからといって攻撃的になろうとは思わない。

ただその一方でやっぱりストレスは感じるから、それについては家に帰ってから家族に癒してもらう。あきらがいればそれこそ言うことなし。

世間的には、

<未婚の母の母子家庭>

と見られている蒼井家、いや、桐佐目きりさめ家は、どうしても色眼鏡を向けられる対象にもなる。公言はしていないものの、パワハラ裁判で時々話題に上ることもある<被告>と同じ苗字ということで、詮索されることもある。

椿には何の責任もない、椿が選択したわけじゃないそんなことで嫌な思いをする時もある。

だけどそれらはすべて、アオが、ミハエルが、悠里ユーリが、安和アンナが、さくらが、あきらが、恵莉花えりかが、秋生あきおがいてくれたら大した問題じゃないのだった。

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