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椿の日常 その3

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起きるのが早いので、学校に行く用意を済ませてもまだ時間には余裕がある。その間に椿つばきはゲームをしていた。

実は、蒼井家ではゲームの時間は制限していない。なので、他にすることがなければほとんど一日、ゲーム三昧ということもある。

でも、アオやミハエルと話している方が楽しいし、望めば二人がかまってくれるので、ゲームばかりということは実際にはそんなになかった。

今も、家事を一段落させたミハエルが椿の隣に座ると、ゲームを一旦停止させて、

「えへへ~、お父さんのおひざ~♡」

ミハエルの膝に座ってきた。

と言っても、正直、もう椿の方が身長も高くなっている。体重も上だ。

だけど、吸血鬼であるミハエルにとってそんな体格差はなんの問題にもならない。座椅子に座っているような確実な安定感がある。だから椿も安心してそうできた。

「椿は、学校、楽しい?」

自分より大きくなった娘を膝に抱いてミハエルが穏やかな表情で問い掛ける。

「うん、楽しいよ♡」

椿は嬉しそうにそう応えた。そこに嘘がないことは、吸血鬼としての超感覚で彼女の鼓動や呼吸や発汗を察知できるミハエルには簡単に分かってしまう。

もっとも、蒼井家の子供達は気持ちがすぐ表情に出るので、そこまでしなくても分かるけれど。つまり、アオにでも分かるということ。

普段からちゃんと自分達の言葉に耳を傾けてくれるのが分かってるので、子供達の方も嘘を吐いたり誤魔化したりする必要もなかった。

そのおかげで、

「学校は楽しいんだけど、山下さんがしつこく自分の<推し>の布教してくるのがちょっと困るんだよね。だからって『興味ない』みたいに言うとキレるしさ。

それで藤木さんとケンカになっちゃったりしてたんだ」

と、学校での出来事を素直に話してくれる。

「そうか。それは大変だね」

ミハエルも素直に相槌を打つ。

「何が好きかは人によって違うからね。自分が好きだからって他の人もそれを好きになってくれるとは限らない。だから自分の好きなものを他人に押し付けるのはトラブルの素なんだ。椿もそれは感じるよね」

父親であるミハエルがそう話し掛けると、椿も、

「うん。それはすっごく思う」

大きく頷いた。

「だからね。山下さんが<推し>を好きなのは別にいいんだ。でも人にそれを押し付けるのは違うよね」

「そうだね。強引にそういうことをすると、山下さんが好きなものに対しての印象が悪くなることもあるよね。だとしたら強引に他人に勧めるのは逆効果だよね。

だけど、自分が好きなものを他人にも好きになって欲しいって思っちゃうのも自然な気持ちだっていうのも、椿には分かって欲しいんだ」

「うん、それも分かってる」

こんな感じで学校に行く時間まで父と娘のコミュニケーションが続けられたのだった。

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