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親の真似

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アオは、とてもたくさんのことを子供達に対して話す。でもそれは、一方的な<お説教>じゃなかった。

一方的なお説教が相手に届く事例を、アオは見たことがなかったからだ。

お説教が届いているように見えるものも、『それは相手が聞いているフリをしているだけ』というのしか見たことがない。そうじゃなければ、ルールを平然と破るような大人がこんなに日常的に当たり前にいるのはおかしい。『決められたことは守れ』とお説教されたりもしただろうに、どうして?

一方的な押し付けというものを、人間はほとんど無意識のレベルで嫌っていることを、アオは自分自身の実感として察してた。彼女自身、お説教など完全に右から左に聞き流すタイプだった。

だからこそ、真面目な話であっても、あくまで日常的な<普通の会話>として話す。ただの親子のコミュニケーションの一つとして。

そして安和アンナ悠里ユーリ椿つばきがそれに耳を傾けてくれるのは、他でもないアオが子供達の他愛ない話にもきちんと耳を傾けるからだった。当然、ミハエルもそうだ。

安和や悠里や椿がアオやミハエルの話に耳を傾けてくれるのは、何のことはない。当のアオやミハエルが普段やっていることを真似ているだけでしかない。決して<いい子>などではなく、親がやってるのと同じことをしていたらそうなっていただけでしかなかった。

これは確かに、アオやミハエルの立場からすれば、

『自分のやったことが招いた状況』

だと言える。

アオは続けた。

「マジで大事なことだから何度も言うけど、

『自分が置かれてる状況は、すべて自分が招いたもの』

ってのは、軽々しく他人に面と向かって言うのは気を付けて欲しい。

冷静に考えたら分かるんだけど、これは本当に酷い矛盾をはらんだ言葉だから。

たとえば、いい歳して『親が悪い、社会が悪い』ってウジウジウダウダしてる人に対して、

『自分が置かれてる状況は、すべて自分が招いたもの』

って言ったら、そのウジウジウダウダしてる人の親が、『自分の子供がいい歳をしていつまでもウジウジウダウダしてるのどうしたらいいですか?』みたいに悩んでるのに対しても、

『自分が置かれてる状況は、すべて自分が招いたもの』

って話になっちゃうからね?

おかしいでしょ? 『親が悪い』みたいなこと言ってる人に対して、『すべて自分が招いた』ってことで『親は悪くない』って言ってんのに、その人の親に対しても、『すべて自分が招いた』って言って親の責任を認めるんだから。

こんな矛盾しかないことをドヤ顔で言われたって、素直に、

『はい、そうですね』

って思えるわけないじゃん。

普段から、物事について多面的に考える、客観的に考える、そういう習慣が身に付いてる人だったらこんなこと言わないよ。

でもまあ、人を傷付けるようなマネしてそれが自分に返ってきたことにムカついてるような人に対してなら、

『自分が、今、置かれてる状況は、自分が招いたもの』

とは言えるだろうけどさ。

安和もマジでそれは忘れないで欲しい」

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