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男ってなんで
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そんなわけでお互いに浮気とかの心配はないものの、アオの方はどうしても心配はある。
だから頻繁に連絡を取ることにした。
担当は安和。セルゲイと悠里は、キャンプすることになったのをいいことに、二人して貴重な生き物に夢中だ。テントからでも見えるところに陣取って、さっきからずっと彫像のように動かない。
徹底して観察するために周囲に気配を同化させているからだ。ダンピールである安和だからこそ認識できるものの、人間なら完全に察知できない。
「む~…」
仕方ないので安和はアオとやり取りをする。
アオも、こうしてやり取りしていられれば安心なので付き合う。
「男ってなんで虫とか好きなの? マジでキモいんですけど? あんなののどこがいいの?」
正直な気持ちを口にする安和に、アオは、
「あはは、それってあるあるだよね。だけど、ミハエルはそこまでじゃないから人によるってもんじゃないの?」
と返す。
『マジでキモいんですけど?』と罵る言葉を使う安和に、頭ごなしに、
『それはダメだよ』
とは言わない。
普段からしっかりと彼女の言葉に耳を傾けてきた母親であるアオだからこそ、彼女がどこまで本気で『罵って』いるのかが分かるからだ。
今の安和のそれは、アオに対して甘えているだけだというのが伝わってくる。
となれば、まず、しっかり甘えさせてあげなくちゃとアオは思う。
その上で、
「でもさ、女の子だって綺麗なものとか可愛いものとか好きじゃん? そういうのって男の人にはあんまり分かんないらしいんだよね。
もちろん、男の人にも綺麗なものとか可愛いものとか好きな人いるけど、男の人が魅力的に感じる<綺麗>とか<可愛い>って女の子の思うそれとは微妙に違ってるよね」
と丁寧に応える。すると安和も、
「あ、それ分かる! 男の子が好きな綺麗とか可愛いってなんか違うよね」
という感じで乗ってくる。そんな我が子に、今は顔が見えないから安和には伝わらないけれど、アオは優しい母親の笑顔になった。
「そういうことなんだよ。男の人と女の子は違ってるからいいんだ。完全に一緒じゃむしろきっと退屈だよ。安心はできるかもだけどさ。
でも、安心できるだけなら、家族とか友達だけでいいじゃん。なのに、家族とか友達とは違う意味で<好き>になるんだよね。それって、たぶん、どんなに自分と似た者同士と感じてても何かどこか違うんだよ。
その<違い>をお互いに見せ合って、そしてお互いに相手を理解しようとするからこそ深く愛することができるんだと私は思うんだ。
私もミハエルのことはいまだに完全に理解できてないよ。だけど、だからこそ彼のことをもっと知りたいと思うし、彼に私を知ってほしいと思えるんだ。
ということは安和もさ、セルゲイのことをたくさん知ろうよ。彼のいろんな面を紐解いていこうよ」
だから頻繁に連絡を取ることにした。
担当は安和。セルゲイと悠里は、キャンプすることになったのをいいことに、二人して貴重な生き物に夢中だ。テントからでも見えるところに陣取って、さっきからずっと彫像のように動かない。
徹底して観察するために周囲に気配を同化させているからだ。ダンピールである安和だからこそ認識できるものの、人間なら完全に察知できない。
「む~…」
仕方ないので安和はアオとやり取りをする。
アオも、こうしてやり取りしていられれば安心なので付き合う。
「男ってなんで虫とか好きなの? マジでキモいんですけど? あんなののどこがいいの?」
正直な気持ちを口にする安和に、アオは、
「あはは、それってあるあるだよね。だけど、ミハエルはそこまでじゃないから人によるってもんじゃないの?」
と返す。
『マジでキモいんですけど?』と罵る言葉を使う安和に、頭ごなしに、
『それはダメだよ』
とは言わない。
普段からしっかりと彼女の言葉に耳を傾けてきた母親であるアオだからこそ、彼女がどこまで本気で『罵って』いるのかが分かるからだ。
今の安和のそれは、アオに対して甘えているだけだというのが伝わってくる。
となれば、まず、しっかり甘えさせてあげなくちゃとアオは思う。
その上で、
「でもさ、女の子だって綺麗なものとか可愛いものとか好きじゃん? そういうのって男の人にはあんまり分かんないらしいんだよね。
もちろん、男の人にも綺麗なものとか可愛いものとか好きな人いるけど、男の人が魅力的に感じる<綺麗>とか<可愛い>って女の子の思うそれとは微妙に違ってるよね」
と丁寧に応える。すると安和も、
「あ、それ分かる! 男の子が好きな綺麗とか可愛いってなんか違うよね」
という感じで乗ってくる。そんな我が子に、今は顔が見えないから安和には伝わらないけれど、アオは優しい母親の笑顔になった。
「そういうことなんだよ。男の人と女の子は違ってるからいいんだ。完全に一緒じゃむしろきっと退屈だよ。安心はできるかもだけどさ。
でも、安心できるだけなら、家族とか友達だけでいいじゃん。なのに、家族とか友達とは違う意味で<好き>になるんだよね。それって、たぶん、どんなに自分と似た者同士と感じてても何かどこか違うんだよ。
その<違い>をお互いに見せ合って、そしてお互いに相手を理解しようとするからこそ深く愛することができるんだと私は思うんだ。
私もミハエルのことはいまだに完全に理解できてないよ。だけど、だからこそ彼のことをもっと知りたいと思うし、彼に私を知ってほしいと思えるんだ。
ということは安和もさ、セルゲイのことをたくさん知ろうよ。彼のいろんな面を紐解いていこうよ」
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