上 下
119 / 571

ギアナ高地に向けて

しおりを挟む
ミハエルと悠里ユーリ安和アンナが三時間休んだあと、アオが心配してるので予定を早め、早速、ギアナ高地に向けて移動することになった。

セルゲイは移動中の自動車の中で眠る。

その間の警戒はミハエルの担当だ。

「ははは、さすがにミハエルは俺より年上なだけあって心得たもんだな」

助手席で目を瞑って休むセルゲイの代わりに周囲への警戒を怠らないミハエルの様子をルームミラー越しに見たボリスが、感心したように声を上げた。

しかし同時に、

「けど、まだ先は長いぞ。あんまり気を張ってたら疲れるんじゃないのか?」

とも。

それは彼なりの気遣いだった。そして実際、ギアナ高地までの道のりは長く、道路も整備されたものばかりじゃなく、さらには元々は整備された道路だったものも十分なメンテナンスが行われていなかったり、内戦の際の戦闘などの影響で、真ん中に突然、大きな穴が姿を現したりと、日本などではなかなか見られない状態が散見され、迂闊にスピードも出せないような状態だった。

その所為もあり、ギアナ高地へ到着には、休憩なしでも十時間が必要だという話だった。

とは言え、体力や精神力での話であれば、吸血鬼であるミハエルにとっては十時間程度の自動車での移動、加えてその間の警戒などどうということもない。

ただ、悠里や安和にはさすがに少々厳しいだろう。

だから途中、何度も休憩する。

政情不安で、現在では戦闘こそは控えれられているものの事実上の内戦状態にある国とは言え、そこにも人の暮らしはあり、道路沿いには、ガソリンスタンドや商店、モーテルなども見られた。

それでも、全ての店舗などが必ず営業している保証もないので、ガソリンについては給油できるときに給油する。それに、ボリスが運転する自動車は、四代目ダッジ・ダートの2ドアクーペという、一九六〇年代後半から一九七〇年代にかけて生産された、今の感覚からすればほぼほぼクラシックカーに等しい、<古き良きアメ車>と言われるもので、馬力も大きいが、ガソリンをばら撒きながら走っているとも言われるほど燃費もアレな自動車だった。

ベネズエラは豊富な原油埋蔵量を誇る産油国でもあるので、ガソリン代は日本などと比べると圧倒的に安いものの、それでもうっかりするとガス欠に見舞われるのは変わらない。

かつては国を挙げて反米を唱えていたにも拘わらず走っている自動車はアメ車も決して珍しくないというのは、他の反米主義的な中南米の国々と共通する点でもあるだろう。

古いアメ車が多い反米主義国という点で有名なのはキューバだが、キューバはアメリカの実質的な植民地同然の時期があったので、当時に持ち込まれた自動車が今でも現役で使われているという背景があり、こちらはむしろ当然なのかもしれない。

ちなみにキューバの反米路線はかつてに比べると緩和されているので、今後は新しいアメ車も増えていくと見られているようだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたし

河衣佳奈
エッセイ・ノンフィクション
タイトルのとおり、「わたし」に着いて書こうと思います。 これは官能小説家としてではなく、人間 河井佳奈として。 気が向いたら読んでください。

予知部と弱気な新入生

小森 輝
キャラ文芸
山に囲まれ自然豊かな高校『糸山高校』に入学した弱気な少女『白山秋葉』は部活選びで奇妙な部活『予知部』というのに興味を引かれてしまう。そこで見た物は、古い本の山と変な先輩『愛仙七郎』そして不思議な体験の数々だった。 感想やお気に入り登録、お待ちしています!してくれると、モチベーションがかなり上がります!

結婚までの120日~結婚式が決まっているのに前途は見えない~【完結】

まぁ
恋愛
イケメン好き&イケオジ好き集まれ~♡ 泣いたあとには愛されましょう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆ 優しさと思いやりは異なるもの…とても深い、大人の心の奥に響く読み物。 6月の結婚式を予約した私たちはバレンタインデーに喧嘩した 今までなら喧嘩になんてならなかったようなことだよ… 結婚式はキャンセル?予定通り?それとも…彼が私以外の誰かと結婚したり 逆に私が彼以外の誰かと結婚する…そんな可能性もあるのかな… バレンタインデーから結婚式まで120日…どうなっちゃうの?? お話はフィクションであり作者の妄想です。

かれこひわづらひ

ヒロヤ
恋愛
男性恐怖症のアラフォー女、和泉澄子。大人の男性に近づくと恐怖で呼吸困難になってしまう彼女が恋をしたのは、誰もが恐れる鋭い目の男、柿坂。二人の会話は常に敬語で、一人称は「わたし」「私」。 どうすれば普通の恋愛ができる?どうすれば相手が逃げない?どうすれば、どうすれば……。 恋愛レベル中学生以下、指先すら触れ合うことのない片腕分の遠距離恋愛の始まり――。 どんなに自信がなくても、怖くても、惨めでも、一生懸命に人生を歩むすべての人に捧げます。 ※ラブシーンは一切ございませんが、かなり大人の男女向け仕様となっております。

尾道 神様の隠れ家レストラン

瀬橋ゆか
キャラ文芸
旧題:尾道神様のレストラン〜神様の料理人と探しモノ〜  「大事な思い出」を探す者だけが辿り着ける、広島・尾道の神社の中にある不思議なレストラン「招き猫」。  なんとそこは”神様と契約した一族”が営むレストランで、「魔法のメニュー」があるという――。  祖母の実家があった尾道に久しぶりに舞い戻ってきた野一色彩梅は、大学生になる直前の春休み、ひょんなことからそのレストランを訪れることになる。  人間でありながら神様でもある、若きイケメン店主の園山神威と実はあやかしな店員たち。そして訪れるお客様は人だけでなく、あやかしたちもだった!?  不思議な縁が織りなす、美味しい「探しもの」の旅をどうぞ。 ※第3章で出てくる「千光寺の宝玉伝説」は実在する伝説です。なお、宝玉が海に沈んだ後からの話は私の創作になります。 あらかじめ、ご了承ください。

ショートな時間

レン太郎
キャラ文芸
短編集です。 暇つぶしにでもどうぞ。

薬草薬局より

かんのあかね
キャラ文芸
のんびりとした街に佇む小さな薬屋。 シアとエーリッヒの過ごすささやかな毎日はさまざまな薬草に彩られていた。 この物語は草花と人々の関わりがもたらす素敵な日々の記録です。 街の片隅にある小さな薬草薬屋でのささやかな物語。

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

処理中です...