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事情

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美千穂が突然涙を流し始めても、セルゲイ達はそれに対して慌てるでもなく詮索するでもなく、ただ彼女が落ち着くのを静かに待った。

いろいろと<事情>を抱えているのは自分達も同じ。人間ほどは情緒不安定になることもないとはいえ、まったく平然としていられるかと言えばそうでもなかった。自分を律することができるだけだ。

そんなセルゲイ達に見守られ、一通り泣きじゃくってようやく、美千穂は少しだけ落ち着いたようだった。

それが彼女にとってはたまらない安心感になったのだろう。事情を聴かれてもいないのに、ぽつぽつと語り始めた。

「私が海外留学したのは、家族から離れたかったというのもあるんです……

私、自分でも覚えてない頃から食欲が異常で……

赤ん坊の頃から尋常じゃないくらいミルクを飲んでたそうなんですけど、離乳食が始まった頃にはそれこそ見てて怖くなるくらいだったそうです。

なのに、太るかと言えば標準よりはちょっと大きいくらいで、とにかく燃費が悪いと言うか何と言うか……

両親はそんな私を連れて何度も病院に行ったものの異常が見当たらなくて。

他の兄妹は全然普通なんです。私だけがそんなで。

だから家族からも気持ち悪がられて、私は家に居場所がありませんでした。

兄や姉からは何度も『豚みたい』って言われたりして……

でも、テレビで<フードファイター>って言われる人達がいるのを知って、これなら私でもなれるんじゃないかなって思って……

だけど家族はやっぱりそれも、『みっともない』『世間様に顔向けできないからやめて』『家の名前に傷が付く』とか言ってて……

まあ、家の名前とか言ったって、うちは祖父がホテル経営に成功して成り上がっただけの元庶民ですけど。

ただ、その所為か上昇志向だけはものすごくて、自分達は世間でも認められたセレブ一家だって思ってるみたいで……

いえ、上昇志向を持ってるっていうだけなら別に悪いことじゃないと思うんです。でも、だからって自分達と違う相手を見下すのは違うんじゃないかなって……

あるフードファイターの人が言ってたんです。『人と違うことができるってのはそれは立派な才能だと思う。だから私はそれを活かしてるだけ』って」

そして彼女は、顔を上げ、泣き腫らした目でセルゲイ達を真っ直ぐ見つめて、拳を握り締めて、力を込めて言ったのだった。

「だから私、本当はフードファイターになりたいんです。それで海外で実績を積んで、家族には認められなくても世間に認められればやっていけるんじゃないかなって思って……!」

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