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家庭のルール

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なお、そうやってアオとさくらが仕事をしている一方で、当のエンディミオンはというと、

「お父さん、またお母さんとちゃんと話しなかったでしょ? ホントそういうの良くないからね?」

と、家の温室で一緒に花の世話をしていた恵莉花えりかに叱られていた。

「あ…あぁ、そうか……それはすまん……」

十歳から十一歳くらいの銀髪の少年が花をいじりながら背を向けたまま、やや横柄な口ぶりでそう応える姿は、知らない人間が見たらいかにも生意気そうな子供に思えたかもしれない。

けれどそれは、かつての彼を知る者からすれば、同一人物かどうかさえ疑うほどのものだった。

何しろ以前の彼は、冷酷非情、眉一つ動かさずに吸血鬼を狩る<吸血鬼ハンター>だったからだ。

それが、自分の娘とは言え、人間の少女に叱られて『すまん』などと応えているのだから。

その時、

「夕食できたよ」

部屋へと繋がるドアを開けて二人に声を掛けたのは、エプロン姿の秋生あきおだった。

先にも触れたとおり、エンディミオンは今は<主夫>なので基本的に家のことは彼がするのだけれど、食事については秋生が得意なので、最近は主に秋生が担当している。

なにしろエンディミオンが作るととにかく肉料理ばかり。

ステーキ→焼肉→ステーキ→焼肉→ステーキ→すき焼き→ステーキ→ローストビーフ

のローテーションで、しかも量が半端ないということでさすがに飽きてしまうのだ。

ちなみに、さくら、恵莉花、秋生は基本的に和食党である。

ウェアウルフであるあきらはどちらかと言えば肉好きなものの、それでもエンディミオンのメニューはやりすぎだった。

そんなこんなで、料理が得意な秋生が週に六日は夕食を担当している。

なお、秋生は、料理だけでなく家事全般が得意なので、最近では主に庭や家の外の掃除などは秋生の役目になっていた。

伝承にあるような『日の光を浴びると灰になる』みたいなことまではすぐにはならないと言っても、長く日光を浴びるのはやはり好ましいことではないのも事実なため、エンディミオンの負担を減らすというのもある。

月城つきしろ家も、こうして互いに支え合うという形で成立している家庭だった。

ただ、その中でも、小さな不満などはある。料理のメニューのこともそうだし、両親のコミュニケーションが不足しているのは子供の立場からすれば心配だった。

だから言うべきことは言う。

けれど、その部分でも気を付けていることはある。

それは、強い<負の感情>をぶつけないこと。

感情に任せて相手を罵らないこと。

家族の間でも、いや、家族の間だからこそ守っているルール。

だからエンディミオンも強く反発せずに済んでいるというのもあったのだった。

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