77 / 571
出逢いの妙
しおりを挟む
初めて会った頃のエンディミオンは、殺意も敵意もまったく隠す気がなかった。ただひたすら自分の憎悪にだけ忠実な、まさに<伝説の悪鬼>だった。
そんな彼がどうしてさくらの言葉にだけは耳を傾けたのか……?
実はその点については、エンディミオン自身にも分からない。
と言うより、彼自身はさくらの言葉に耳を傾けたつもりなどなかったらしい。単に気まぐれを起こしただけだと自分では思ってるそうだった。
なのでこればかりは、まさに、
<出逢いの妙>
<偶然の産物>
としか言いようがないのかもしれない。なぜか彼に届く言葉を発することができるさくらと彼が偶然出逢ってしまったということなのだろうか。
けれど、出逢いそのものは偶然でも、なぜさくらの言葉が届いたのかは、二人を客観的に見てきたアオだからこそ推測できる部分はあった。
これはもう、
『さくらが彼を受け止めたから』
の一言に尽きるだろうとアオは思っていた。
それまでは<忌まわしい存在>としてただただ嫌悪されてきた彼が、ようやく見付けた、
<自分自身を受け止めてくれる存在>
が、さくらだったのだと。
さくらは、何か綺麗事を彼に言っていたわけではなかった。
『あなたの罪をすべて許します』
とか、
『あなたにも生きる権利はある』
とか、口先だけの綺麗な言葉を発していたわけじゃなかった。
しかしそれと同時に、彼の暴力的な気配には怯え身を竦めながらも彼に対して<憎しみ>はぶつけていなかった気がする。
ミハエルに敵意を向けてアオまで傷付けようとするような彼の振る舞いには憤っても、彼自身を憎んだり蔑んだりはしていないという印象があった。
他人を傷付けるのは良くないこととしながらも、彼自身がそれまでどれだけ傷付けられてきたかという点について目を瞑ることもなかった。
こう言うと、『あなたの罪をすべて許します』とか『あなたにも生きる権利はある』とかの綺麗事を並べているようにも聞こえるかもしれないけれど、そうではなかった。
彼の振る舞いについては決して許していないけれど、事実は事実として認めると言うか……
この辺りはニュアンスを伝えるのが非常に難しい。最初から理解する気のない人間には伝わらないことだろう。
ただ、さくらは、許せないことは許せないとしながらも、彼のことを理解しようとはしていた。
彼の苦しみを、痛みを、悲しみを、憎しみを、ただあるがまま受け止め、その上で、
『私の大切な人達を傷付けないで』
という態度だけははっきりさせていたように思えた。
それが、彼に、
<大切なものを奪われる痛み>
を思い出させたのかもしれない。
そんな彼がどうしてさくらの言葉にだけは耳を傾けたのか……?
実はその点については、エンディミオン自身にも分からない。
と言うより、彼自身はさくらの言葉に耳を傾けたつもりなどなかったらしい。単に気まぐれを起こしただけだと自分では思ってるそうだった。
なのでこればかりは、まさに、
<出逢いの妙>
<偶然の産物>
としか言いようがないのかもしれない。なぜか彼に届く言葉を発することができるさくらと彼が偶然出逢ってしまったということなのだろうか。
けれど、出逢いそのものは偶然でも、なぜさくらの言葉が届いたのかは、二人を客観的に見てきたアオだからこそ推測できる部分はあった。
これはもう、
『さくらが彼を受け止めたから』
の一言に尽きるだろうとアオは思っていた。
それまでは<忌まわしい存在>としてただただ嫌悪されてきた彼が、ようやく見付けた、
<自分自身を受け止めてくれる存在>
が、さくらだったのだと。
さくらは、何か綺麗事を彼に言っていたわけではなかった。
『あなたの罪をすべて許します』
とか、
『あなたにも生きる権利はある』
とか、口先だけの綺麗な言葉を発していたわけじゃなかった。
しかしそれと同時に、彼の暴力的な気配には怯え身を竦めながらも彼に対して<憎しみ>はぶつけていなかった気がする。
ミハエルに敵意を向けてアオまで傷付けようとするような彼の振る舞いには憤っても、彼自身を憎んだり蔑んだりはしていないという印象があった。
他人を傷付けるのは良くないこととしながらも、彼自身がそれまでどれだけ傷付けられてきたかという点について目を瞑ることもなかった。
こう言うと、『あなたの罪をすべて許します』とか『あなたにも生きる権利はある』とかの綺麗事を並べているようにも聞こえるかもしれないけれど、そうではなかった。
彼の振る舞いについては決して許していないけれど、事実は事実として認めると言うか……
この辺りはニュアンスを伝えるのが非常に難しい。最初から理解する気のない人間には伝わらないことだろう。
ただ、さくらは、許せないことは許せないとしながらも、彼のことを理解しようとはしていた。
彼の苦しみを、痛みを、悲しみを、憎しみを、ただあるがまま受け止め、その上で、
『私の大切な人達を傷付けないで』
という態度だけははっきりさせていたように思えた。
それが、彼に、
<大切なものを奪われる痛み>
を思い出させたのかもしれない。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あやかし狐の身代わり花嫁
シアノ
キャラ文芸
第4回キャラ文芸大賞あやかし賞受賞作。
2024年2月15日書下ろし3巻を刊行しました!
親を亡くしたばかりの小春は、ある日、迷い込んだ黒松の林で美しい狐の嫁入りを目撃する。ところが、人間の小春を見咎めた花嫁が怒りだし、突如破談になってしまった。慌てて逃げ帰った小春だけれど、そこには厄介な親戚と――狐の花婿がいて? 尾崎玄湖と名乗った男は、借金を盾に身売りを迫る親戚から助ける代わりに、三ヶ月だけ小春に玄湖の妻のフリをするよう提案してくるが……!? 妖だらけの不思議な屋敷で、かりそめ夫婦が紡ぎ合う優しくて切ない想いの行方とは――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
夜に駆ける乙女は今日も明日も明後日も仕事です
ぺきぺき
キャラ文芸
東京のとある会社でOLとして働く常盤卯の(ときわ・うの)は仕事も早くて有能で、おまけに美人なできる女である。しかし、定時と共に退社し、会社の飲み会にも決して参加しない。そのプライベートは謎に包まれている。
相思相愛の恋人と同棲中?門限に厳しい実家住まい?実は古くから日本を支えてきた名家のお嬢様?
同僚たちが毎日のように噂をするが、その実は…。
彼氏なし28歳独身で二匹の猫を飼い、親友とルームシェアをしながら、夜は不思議の術を駆使して人々を襲う怪異と戦う国家公務員であった。
ーーーー
章をかき上げれたら追加していくつもりですが、とりあえず第一章大東京で爆走編をお届けします。
全6話。
第一章終了後、一度完結表記にします。
第二章の内容は決まっていますが、まだ書いていないのでいつになることやら…。
後宮の裏絵師〜しんねりの美術師〜
逢汲彼方
キャラ文芸
【女絵師×理系官吏が、後宮に隠された謎を解く!】
姫棋(キキ)は、小さな頃から絵師になることを夢みてきた。彼女は絵さえ描けるなら、たとえ後宮だろうと地獄だろうとどこへだって行くし、友人も恋人もいらないと、ずっとそう思って生きてきた。
だが人生とは、まったくもって何が起こるか分からないものである。
夏后国の後宮へ来たことで、姫棋の運命は百八十度変わってしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる