ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)

京衛武百十

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現代のシートン動物記

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素晴らしい蝶のスケッチを描いてみせるように、セルゲイの人相書きは、警察の人相書きの専門家すら舌を巻くほどの出来であり、写りの悪い写真よりもよっぽど特徴を捉えていた。

そのおかげもあり、ジャカルタの当局は早々にササキ・ジロウと名乗った青年を特定。要注意人物としてマークしているそうだ。こうなればもうセルゲイの出番はない。

ただ、今はまだ、それぞれの国の捜査機関などの連携が必ずしもスムーズに取れていない、情報も共有されていないという現実があり、日本の警察がササキ・ジロウなる人物について裏を取るというような段階には至っていない。

それをしていれば、あの青年の周囲に<ササキ・ジロウ>という実在の人物がいたりということも分かったりするのだろうが……

などということはもう脇において、今はトロントを楽しもう。

また、移動中の飛行機の中で睡眠をとったこともあり、安和アンナは、

「ショッピングに行こう!」

と張り切っている。

「うん、そうだね」

セルゲイは応えて、二人して紫外線を遮断するブルゾンを羽織り、サングラスをかけ、どこか、

<お忍びでバカンスに来たハリウッドセレブ>のような空気感を放ちつつ、ショッピングへと出掛けてしまった。

「元気だなあ…」

そんな妹に、悠里ユーリは苦笑いを浮かべる。

そして悠里自身は、ジャカルタで観察しスケッチした昆虫の資料を、ミハエルのアドバイスも受けながらまとめていた。

こうしてまとめられたそれは、さすがに専門家であるセルゲイがまとめたものに比べれば拙いものの、僅か十三歳の少年の手によるものとしてみれば十分に立派な出来だっただろう。

「よく出来てるよ」

父親であるミハエルにそう言ってもらえて、悠里は少しはにかんだような笑顔を浮かべながらも、嬉しそうだった。

いつかこれを世に出すこともあるかもしれないものの、今は取り敢えずただ自分の楽しみとして編纂する。

いずれ学校に通うことがあれば、これを<自由課題>のような形で提出してもいいかもしれない。

とは言え、さすがに出来が良過ぎて必要以上に目立ってしまったりするかもしれないが。

なお、セルゲイの研究の一部(スケッチ等)については、人間の作家を通じて<共同制作>という形で絵本として出版されてもいる。

セルゲイがまとめた資料を基にその作家が文章を書き、絵本とするのだ。それは、

<現代のシートン動物記>

とも評され、様々な言語に翻訳されて多くの国で発行され、人気を博し、これもまた、セルゲイの収入の一部になっていたのだった。

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