59 / 571
本当にしたいのは
しおりを挟む
アオが、自分の母親が言いたいことを悠里は理解していた。
彼女は、批判的な読者や視聴者を攻撃したいわけじゃないと。
<批判に見せ掛けた憂さ晴らしのための攻撃という行為>
を批判しているだけなのだと。
人間は弱い。誰かに八つ当たりせずにいられないこともある。その憂さ晴らしとして、
<叩き易い相手>
をつい叩いてしまうことがあるのも人間だ。
そんな人間の弱さを認めた上で、敢えて、
『叩き易い相手を叩くという浅ましい行為は正当化されない』
と、我が子に伝えたいのだと。
なぜなら、ダンピールにとって脆弱な人間は、それこそ叩くのに非常に都合のいいサンドバッグだ。
『自分達のような異端の存在を忌み嫌い迫害し、叩き易い相手を見付けては集団で袋叩きにするような浅ましい生き物。それが人間である』
という<言い訳>で人間を攻撃するような危険な存在になってほしくないと願っているのだと、僅か十三歳ではあるけれど、彼には伝わっていた。
それは、彼自身に、自分の存在が全面的に受け入れてもらえているという実感があることで生まれる精神的な余裕があってのことだった。だから母親の話に素直に耳を傾けることができる。
それもなしで、頭ごなしに『理解しろ!』と言ったところで理解できるはずがないのは、アオ自身がよく知っていた。
彼女自身が、頭ごなしにただ押し付けてくるだけの自分の両親に反発していたから。
それを知っているのに何もわざわざ同じ失敗をする必要もない。
『親がそうやって押し付けてきてたんだから、自分も』
というのはただの甘えだとアオは理解していて、自身の両親の失敗を活かし、自分は同じ失敗をしないように努力した結果が、今の悠里と安和だった。
アオのことをよく知らず、彼女を信頼していない人間は、彼女の言ったことを単なる<読者批判><視聴者批判>と受け止めるだろう。
しかしそれこそがまさに、
『自身の真意を相手に伝えるためには、双方の間に信頼感がなければ、果てしなく困難な道になる』
という何よりの証拠かもしれない。
彼女が本当にしたいのは、<読者批判><視聴者批判>ではないのだ。
単に『気に入らない』というだけの理由で他人を攻撃することがいかに危険で非論理的かということを知ってほしいだけなのだから。
「大丈夫だよ、母さん。僕も分かってる。そんなことで他人を傷付けたりしないよ」
少し困ったように微笑みながらもそう言ってくれた悠里に、アオは、
「うん、ありがとう。悠里は本当に私の自慢の息子だよ」
と、すごく嬉しそうに表情を崩したのだった。
彼女は、批判的な読者や視聴者を攻撃したいわけじゃないと。
<批判に見せ掛けた憂さ晴らしのための攻撃という行為>
を批判しているだけなのだと。
人間は弱い。誰かに八つ当たりせずにいられないこともある。その憂さ晴らしとして、
<叩き易い相手>
をつい叩いてしまうことがあるのも人間だ。
そんな人間の弱さを認めた上で、敢えて、
『叩き易い相手を叩くという浅ましい行為は正当化されない』
と、我が子に伝えたいのだと。
なぜなら、ダンピールにとって脆弱な人間は、それこそ叩くのに非常に都合のいいサンドバッグだ。
『自分達のような異端の存在を忌み嫌い迫害し、叩き易い相手を見付けては集団で袋叩きにするような浅ましい生き物。それが人間である』
という<言い訳>で人間を攻撃するような危険な存在になってほしくないと願っているのだと、僅か十三歳ではあるけれど、彼には伝わっていた。
それは、彼自身に、自分の存在が全面的に受け入れてもらえているという実感があることで生まれる精神的な余裕があってのことだった。だから母親の話に素直に耳を傾けることができる。
それもなしで、頭ごなしに『理解しろ!』と言ったところで理解できるはずがないのは、アオ自身がよく知っていた。
彼女自身が、頭ごなしにただ押し付けてくるだけの自分の両親に反発していたから。
それを知っているのに何もわざわざ同じ失敗をする必要もない。
『親がそうやって押し付けてきてたんだから、自分も』
というのはただの甘えだとアオは理解していて、自身の両親の失敗を活かし、自分は同じ失敗をしないように努力した結果が、今の悠里と安和だった。
アオのことをよく知らず、彼女を信頼していない人間は、彼女の言ったことを単なる<読者批判><視聴者批判>と受け止めるだろう。
しかしそれこそがまさに、
『自身の真意を相手に伝えるためには、双方の間に信頼感がなければ、果てしなく困難な道になる』
という何よりの証拠かもしれない。
彼女が本当にしたいのは、<読者批判><視聴者批判>ではないのだ。
単に『気に入らない』というだけの理由で他人を攻撃することがいかに危険で非論理的かということを知ってほしいだけなのだから。
「大丈夫だよ、母さん。僕も分かってる。そんなことで他人を傷付けたりしないよ」
少し困ったように微笑みながらもそう言ってくれた悠里に、アオは、
「うん、ありがとう。悠里は本当に私の自慢の息子だよ」
と、すごく嬉しそうに表情を崩したのだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
異世界で神様に農園を任されました! 野菜に果物を育てて動物飼って気ままにスローライフで世界を救います。
彩世幻夜
恋愛
エルフの様な超絶美形の神様アグリが管理する異世界、その神界に迷い人として異世界転移してしまった、OLユリ。
壊れかけの世界で、何も無い神界で農園を作って欲しいとお願いされ、野菜に果物を育てて料理に励む。
もふもふ達を飼い、ノアの箱舟の様に神様に保護されたアグリの世界の住人たちと恋愛したり友情を育みながら、スローライフを楽しむ。
これはそんな平穏(……?)な日常の物語。
2021/02/27 完結
東京浅草、居候は魔王様!
栗槙ひので
キャラ文芸
超不幸体質の貧乏フリーター碓氷幸也(うすいゆきや)は、ある日度重なる不運に見舞われ、誤って異世界の魔王を呼び出してしまう。
両親を亡くし、幼い弟妹を抱えながら必死に働いている幸也。幾多の苦難に見舞われながらも、いつか金持ちになり安心して暮らす未来を夢見て日夜バイトに励んでいた。そんな彼の前に、最凶の存在が立ち現れる。
人間界を良く知らない魔王様と、彼を連れ戻そうと次々現れる厄介な悪魔達に振り回されて、幸也の不幸はさらに加速する!?
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
虎の帝は華の妃を希う
響 蒼華
キャラ文芸
―その華は、虎の帝の為にこそ
かつて、力ある獣であった虎とそれに寄り添う天女が開いたとされる国・辿華。
当代の皇帝は、継母である皇太后に全てを任せて怠惰を貪る愚鈍な皇帝であると言われている。
その国にて暮らす華眞は、両親を亡くして以来、叔父達のもとで周囲が同情する程こき使われていた。
しかし、当人は全く堪えておらず、かつて生き別れとなった可愛い妹・小虎と再会する事だけを望み暮らしていた。
ある日、華眞に後宮へ妃嬪として入る話が持ち上がる。
何やら挙動不審な叔父達の様子が気になりながらも受け入れた華眞だったが、入宮から十日を経て皇帝と対面することになる。
見るものの魂を蕩かすと評判の美貌の皇帝は、何故か華眞を見て突如涙を零して……。
変り行くものと、不変のもの。
それでも守りたいという想いが咲かせる奇跡の華は、虎の帝の為に。
イラスト:佐藤 亘 様
予知部と弱気な新入生
小森 輝
キャラ文芸
山に囲まれ自然豊かな高校『糸山高校』に入学した弱気な少女『白山秋葉』は部活選びで奇妙な部活『予知部』というのに興味を引かれてしまう。そこで見た物は、古い本の山と変な先輩『愛仙七郎』そして不思議な体験の数々だった。
感想やお気に入り登録、お待ちしています!してくれると、モチベーションがかなり上がります!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな
ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】
少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。
次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。
姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。
笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。
なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる