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約束

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『僕なら今夜中に見付けてあげられるよ』

セルゲイのその言葉に、若い男の顔がカアッと赤くなる。

「言ったな!? だったら今夜中に見付けてみせろよ!」

「いいですよ。では、見付けたら届けて差し上げますので、宿泊しているホテルと部屋番号を教えてください」

「く…! ホテルは……!」

こうしてホテルと部屋番号を聞き出したセルゲイは、

「え、と、ササキ・ジロウさんですね? それでは、○○ホテルの二〇八七号室まで、明日の正午までにお届けに参ります」

と丁寧に<約束>した。そこに、

「誰かそこにいるんですか?」

不意に声が掛けられ、懐中電灯の灯りが向けられる。

ツアーのスタッフだった。

「参加者の方ですか? そちらは道がないので立ち入らないようにお願いしてましたよね? 事故防止のためにご協力お願いします」

「……すいません……」

スタッフに注意され、ササキ・ジロウと名乗った若い男はすごすごとツアーに戻っていった。

気配を消してそれを見届けたセルゲイと悠里ユーリは、ジャングルの奥へと戻っていく。

しばらく行ったところで、

「今夜中にとか、大丈夫?」

悠里が至極まっとうな心配を口にする。

けれどセルゲイはそんな悠里に対してウインクを返し、

「大丈夫。問題ないよ」

と微笑んだ。

そしてあのササキ・ジロウと遭遇した辺りまで戻り、

「ほら」

と指差したそこには、

「あ…っ!」

悠里が思わずそんな声を上げてしまうほどの立派なコーカサスオオカブトがいた。おそらく最大クラスに迫るほどのサイズだった。角も、悠里が最初に見たのとはまるで違う堂々たる形と長さだ。

「彼がここにいたのに気付いてたから、ああ言ったんだよ」

「そうか…!」

セルゲイの機転には本当に驚かされる。

吸血鬼としての鋭敏な感覚をいかんなく発揮して確実に問題に対処してみせる。

そんな彼を、悠里は尊敬のまなざしで見ていた。

けれど、セルゲイがやってみせたことは、実はそんなに特別なことじゃなかった。それなりに経験を積んだ吸血鬼ならだいたい誰でもできる程度のものでしかない。むしろ悠里がまだ幼くて未熟なだけだ。

でも、それでいい。大人にとっては本当になんてことのないことでも、まだそれができない子供にとっては十分尊敬に値することだったりするのだから。

自分が信頼している相手だと、実に些細なことでも尊敬したりときめいたりすることはないだろうか?

要は、子供相手でもそういうことだろう。

子供にはできないことでも、大人にはできたりもする。子供にとっては本来ならそれだけでも十分に尊敬に値するのだから。

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